辻本 聡  EK5042  2007629

神田敏晶著 『YouTube革命』

(ソフトバンククリエイティブ 2006年)

1.一回目の発表の要旨

 ユーチューブで何ができるのか、動画共有による新しいビジネスモデルについて、いくつか例を挙げて述べた

 

2.方向転換を余儀なくされたテレビ業界(第三章)

・タイムシフト ―― 編成からの「自由」

大容量HDDレコーダーの登場で、番組表に関係なく見たいものが見たいときに見られる

・プレイスシフト ―― どこで見るのも「自由」

「ロケーションフリー[1]」を使えば自宅で録画した番組をネット経由でどこからでも見られる

・検索できる映像

  ex)「クローズドキャプション[2]」による検索サービス「グーグルビデオリサーチ」

視聴率というモノサシの崩壊

「テレビ局が寝ている間に、視聴環境はどんどん変化しているのだ」P.78

・極楽とんぼ事件が浮き彫りにしたこと

「極楽とんぼ」の一人が17歳少女に暴行 → 相方の謝罪映像が次々とユーチューブにアップ

    → なぜこれほどヒットしたのか?

      ・番組を見逃したユーザーがこの映像を見るための唯一の手段だから

       ・テレビ局がいつでも再放送して見られるサービスを提供していたら・・・

→ 大きなビジネスチャンスを逃してしまった

・テレビ2.0という発想へ

  1.0:テレビCMによる無料放送「地上波テレビ」

  2.0:保存されたデータで、ネットワーク上でディスプレイに映せるものであればなんでも、受信型、ストリーム[3]型を問わず情報が自動的に表示されるようになり、テレビはその中の1コンテンツに過ぎない

 

3著作権2.0を考える(第五章)

・ユーチューブは著作権の侵害者なのか?

  削除要請に適宜対応、1ファイル当たりの時間制限、通報ボタン「Flag as Inappropriate」の設置

  動画の自動フィルタリング機能も導入予定(2006)

・著作権団体という「壁」

  テレビ局など日本の著作権関係権利者団体・事業者が集中的に削除要請を行い、約3万件のファイルが削除

  その後、自動掲載機能の見直し、投稿前審査、投稿者の匿名性排除などを要請

    ← 米国のテレビ局は共存の道を歩みはじめている

・ユーザーの著作権意識

ユーザーは違法コンテンツを見ることについての問題意識や危機感はさほど強くない

違法コンテンツの削除については、コンテンツホルダーと動画投稿サイトの共存を模索するべきとしている

→ユーザーの利便性を損なわないようにしてほしいというのが本音

・告訴から共存へ

  米国テレビ局NBC人気番組「サタデーナイトライブ」がアップ、NBCの要請により削除されたが、そのことによりユーチューブの知名度が上がる

    → NBCは一転してユーチューブとの提携を発表

    → 他のコンテンツメーカーも次々と提携

・ⒸからCC

  「CC(クリエイティブ・コモンズ)」

    個人著作者や非商用コンテンツホルダーが、ある程度その著作物の権利を持ったまま、一定の条件下で著作物を他人に利用させることを可能にしようという運動

    帰属表示、非商用、派生禁止、同一条件許諾の4つの利用条件が選択可能

  ex)NTTによる動画共有サイト「ClipLife

 

4.ユーチューブ後の世界(第六章)

・「競争」から「共創」の時代へ

  マイスペースは日本での事業化にあたり、ソフトバンクをパートナーとして選択

    → マイスペースの広告枠はグーグルが専売契約

   = ユーザーにとって魅力ある「場」を創造するには、競合関係を度外視した事業提携も必要

・所有から共有/消費から再生産へ

  インターネットから派生したビジネスが勃興し、コンテンツを「共有」「再生産」するという概念が誕生

    → そのトリガーとなったのがユーチューブなどの動画共有サービス

    ex)「欽ちゃんの仮装大賞」の「ピンポン」

・個人メディアのロングテール

  映像の世界にも「ロングテール理論」が成立

  ユーチューブの数千万種類の映像はまさにロングテール(ヘッド部分は地上波テレビ)

    → いままではテールの住人のタレント(個性や才能)には光が当たることがなかった

    → ロングテール化した映像コンテンツの世界ではユーザー1人ひとりが「総自己表現社会[4]」の主役

・情報の偏食化

  SNSと秀逸な検索サービスにより、自分に都合のいい情報ばかりを収集してしまう「情報の偏食化」

    → ユーザーが自分では絶対に選ばない、検索しない、見つけられない情報(ノイズ)を大量に提供することが、ユーチューブ革命後のマスメディアの意義

・「ユーチューブ革命」

  情報の生産と流通のコストは、限界まで削減され、新たなライフスタイルを生み出そうとしている。

  その社会を生み出すトリガーが「ユーチューブ革命」

・ユーチューブは勝ち続けるか?

  動画共有サイトにあってはユーチューブが圧倒的優位

    → 「レヴァー」の広告シェア分配サービス、動画編集サイト「ジャンプカット」「アイスポット」

  現在のポジションに安住し、サービスの高度化を止めてしまうようでは、存続はありえない

  ユーザーの視点に立てば立つほど有利になるのが、Web2.0時代のビジネス

 

5.考察

Web2.0という新しい社会では、個人がよりクローズアップされるようになり、誰もが自己表現の手段を持つことができるようになった。また、ユーチューブの登場により、映像の世界は大きく変わりはじめている。放送の既得権益を変え、著作権制度に影響を与え、作品製作のスタイルの変革にもつながっている。ユーチューブは映像の共有という新たな体験を生み出した。そこから、新たなビジネス、ライフスタイル、文化が生まれる可能性を秘めている。メディアはすでに消費するだけのものではなくなった。

自分がユーザーという立場にあるため、筆者の「Web2.0の真骨頂とはユーザー側の視点に立つことである」という意見には大賛成である。著作権に関しても、緩すぎる意見に多少の疑問はあるが、一部の著作権者などがいう課税、規制の強化に比べれば、コンテンツが硬直しないだけマシだと思う。ユーチューブはツールであり、問題にしなければならないのは「どう使うか」ではないだろうか。



[1] ソニーが販売する無線LANを搭載したテレビのこと。テレビ放送がインターネットを介してリアルタイムで視聴できる。

[2] テレビ上に文字を表示する方法の一つ。耳の不自由な人、難聴の人が放送を楽しむために開発された。日本では一般的に字幕放送と呼ぶ。

[3] 配信の形式のひとつ。インターネット上にあるデータを全てダウンロードが終わる前に再生を行う。

[4] 元は「総表現社会」と言い、梅田望夫著『ウェブ進化論』の中で使われた。表現行動・発表行動が大衆化した社会のこと。