溝上幸伸『 ソフトバンクの参戦で変わる ケータイ業界勢力図』 について

(ぱる出版、2004年)

 

山田 りさ

 

選定理由

私にとって携帯電話は生活必需品といっていいほど必要不可欠なものである。しかし、自分が使っている携帯会社のサービスや携帯の機能は知っていても、他会社については知らないことが多い。またソフトバンクが携帯の基本料金値下げしたニュースなどを見て、携帯業界に興味をもったため。

 

著者の紹介

溝上幸伸(みぞうえ・ゆきのぶ)

 1955年生まれ。株式専門誌、経済誌等の記者を経て、現在フリージャーナリスト。通信業界から金融・流通・医薬品業界まで幅広いジャンルで、週刊誌や月刊誌にも数多く執筆。主な著書に『無印良品とユニクロ』、『ホンダイズム』、『ウォルマート方式』、『医薬品業界再編地図』など多数。

 

注目すべき一節

¨         2006年は携帯電話市場にとって激変の年となる。」(12頁)

¨         「新規参入が果たされ、番号ポータビリティ制度が導入されれば、価格競争が激化し、サービス競争や機能競争がより激しくなっていき、各社(既存携帯業者)ともこれまでのような高い利益率をむさぼることができない消耗戦に突入することになる。」(14頁)

¨         「既存三社のキャリア間でさえ大幅なシェア変動はありえる。ということは、新規業者がまったく新しいサービスで顧客の心をつかめば、一気にシェアを獲得することは可能だということだ。」(19頁)

¨         「現在各家庭や企業に敷かれた通信網は、単なる通話回線だけでなく、ADSLをはじめとする高速回線、そして最終的には光ファイバーを各家庭まで引き込む、大ブロードバンド時代の到来が予測されている。」(42頁)

¨         「絶対に引き下げられることはないだろうと思われた固定電話の基本料分野が、孫正義氏が日本テレコムを通じて引き下げると言った途端、わずか数ヶ月でばたばたと引き下げが決定した。KDDIが参入し、NTTも渋々ながら引き下げを決めた。」(104頁)

¨         「第三世代のサービス開始ではFOMAが先行していながら、auに遅れを取ったのは、ガリバー企業として世代交代を遅らせたかった事情、第二世代と規格が違うので巨額な設備投資がかかるため、通信網設備が遅れたことなどの理由があるが、ボーダフォンの場合は、そういう意図的な問題ではない。競争という点で完全に立ち遅れていた。」(185頁)

 

 

要 旨

 第1章では、NTTドコモ、KDDI、ボーダフォン(現ソフトバンク)の三社寡占だった携帯市場が2006年に新規参入が実現され、同年に番号ポータビリティ制度が導入されることで激変の年になると述べている。

 第2章では、携帯電話市場は飽和状態であり、買い替え需要が中心となっている。その武器が第三世代携帯電話であり、ドコモを抑えauが好調である。

 第3章は、新規参入業者の中で既存キャリアにとって最大の脅威となるソフトバンク孫正義氏の大胆な発想と行動力について述べてある。ソフトバンクはMA[1]により、既存の事業を手がけている企業を買収することで拡大を進めているが、それゆえに人材が決定的に不足している。攻めに強いが守りに弱いという本質を持つ。

 第4章は、携帯市場で圧倒的なシェアを握るNTTドコモについて述べている。圧倒的なシェア確保の源となったのは、インターネットの浸透に歩調を合わせたiモード        の爆発的ヒット、官僚体質NTTグループとは思えない外部からのスカウトした人材を中心に展開、コンテンツの充実、ソフト志向によるものだ。しかしiモードの成功に酔い、守りの姿勢が強まり、第三世代携帯でKDDIの猛追を許した。

 第5章は、ガリバーNTTドコモへの一番の挑戦者KDDIについて述べている。KDDIは、創業から他社との統合、合併を繰り返し、社内体制の未整備で出遅れたスタートだったが、京セラの創業者稲盛和夫氏のベンチャー気質が極めて強い経営管理手法のもと「打倒ドコモ」というスローガンを提唱し、auブランドを強力にプッシュした。そして第三世代で特色を打ち出す本格的な攻めの姿勢にでた。

 第6章はボーダフォンが伸び悩む原因、そして日本の特色を考えない英国本社主導の経営について問題視している。

 

 

・。講 評

 

著者の問題設定

 A  2006年にソフトバンクが携帯業界に参戦することで、携帯業界が大激変する「携帯ビックバン」がやってくる

B 新規参入にあたってNTTドコモ、KDDI、ボーダフォンの方向性や戦略とは

著者の回答

A これまでの携帯電話市場は、NTTドコモ、KDDI、ボーダフォンの三社による競争が行われており、周波数の関係で新規参入は制限されていた。しかし総務省が新規参入を認め、2006年に実現される。新規参入業者は、飽和状態にある携帯業界で契約者を確保するため、低価格を打ち出すだろう。すると価格競争が激化し、サービス競争や機能競争も激化、各社は利益の消耗戦に突入する。また、同年に番号ポータビリティ制度が導入されることも競争に拍車をかける。新規参入業者の筆頭は、ソフトバンク孫正義氏であり、彼の大胆な発想と行動力で、今やモバイル機器の中心的役割であり、通信インフラとして無限の広がりを持つ携帯業界に参入し、シェア獲得を狙う。既存業者は、低価格を打ち出すだろう新規業者から、機能面の差別化によって利用者が奪われるのを食い止めることができる。携帯電話を使ってどういう機能やサービスを打ち出すかが焦点だ。

 

B  iモードの爆発的ヒットでシェアを確保したドコモは危機感の欠如により、ボーダフォンの写メールのヒットを見逃し、第三世代携帯では、FOMAに先行メリットがあったにもかかわらず、auの独走を許した。圧倒的なシェアを握り、本来ドコモの根底にある官僚体質が現れ、守りの姿勢となったのだ。また、ドコモには圧倒的なシェアを握るがゆえに、いたずらにシェアを確保しすぎると独占企業となり監督官庁に事業を阻害させられる可能性がある。ドコモにとって、新規参入者が数パーセントのシェアを握り、KDDI,ボーダフォンと下位業者でシェアを食い合う構図が望ましい。

 KDDIは、創業から他社との統合、合併を繰り返し、社内体制の未整備で出遅れたスタートだったが、携帯事業を一本に集約し、定額制、多様なコンテンツを用意することで集客力を高め、順調な第三世代携帯を武器にシェアを獲得していく。

 ボーダフォンは第三世代携帯で大きく立ち遅れ、業績悪化も深刻である。競争という点で立ち遅れているのだ。しかしボーダフォンはドコモを現在のガリバーにした最大の功労者である、元ドコモの副社長だった津田志郎氏を次期社長としてスカウトした。津田氏がトップとなってボーダフォンを引っ張っていけば、反撃体制が整い、一気のシェア奪回もありえるだろう。

 

評者の見解

 2006年、著者の見方に反して、ソフトバンクはボーダフォン日本法人を買収することで携帯業界に参入してきた。孫正義氏は著者の予想通り低価格を打ち出し、価格競争は激化している。低価格を武器にするソフトバンクが三ヶ月連続純増数で首位となった(20075月〜7月)ことから、よほど画期的な機能やサービスを提供しない限り、機能やサービスの差別化によって利用者が奪われることを食い止めるということは出来ないと思う。

 20074月からイー・モバイルが13年ぶりの新規参入企業として事業を開始したが、市場でのシェアは0.1%(20076月)ほどである。とはいっても事業は開始したばかりだ。これからが著者の言う「低価格・サービス競争」、「シェア争い」が激化していくだろう。

 

今後の課題

今、ソフトバンクがボーダフォンを買収することで参入し、新規業者の参入も実現した。著者がいう「携帯ビックバン」が起きている。実際にどのような戦略でシェアを獲得するか、どのような競争が行われていくか、著者の予想を検証しつつ学んでいきたい。

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   http://wwwint2.int.komazawa-u.ac.jp/~ 1ek5124y/  

 



[1] 企業の合併・買収を総称して言う。