新倉 理恵
『色彩嗜好とパーソナリティ』
key word: 色彩嗜好、パーソナリティ、色彩イメージ
【問題】
人の生活は物を使用することによって営まれる。したがって、どんなものを使用しているかを知る事によって、その人の人物像をある程度言い当てる事が出来る。同様に、その人の色の選び方や使い方から性格を知る事が出来ないかという疑問が生じる。実際、我々は直観によって色を選び、ある程度決まりきったような色を使っている。このように、色の選び方はその人固有のものであり、持続性があるため、性格と関係があるのではないかと考えられる。
そこで本研究では、14色・111色・紫色の3パターン用いて、色彩嗜好および色彩嫌悪とパーソナリティとの関係を検討することを目的とする。
【方法】
調査実施次期:1999年7月9日〜16日と9月20日〜30日
被験者:大学生男子42名、女子58名、計100名。
手続き:調査1では14色(純色12色と無彩色2色)、調査2では111色(9トーンと無彩色3色)、調査3では紫色の色紙を提示し、嗜好色または嫌悪色の選択を求め、それぞれの選択色のイメージ(9項目、7段階評定)も回答させた。また、パーソナリティを測定するものとして、YG性格検査を用いた。
【結果と考察】
1、色相嗜好とパーソナリティ
まず、調査1で用いた14色を暖色群(赤・赤みの橙・黄みの橙・黄)、寒色群(青緑・緑みの青・青・白)、中性色群(黄緑・緑・青紫・紫・赤紫・黒)と3グループに分類した。そして、グループ別にYG性格検査による12の性格特性平均値を算出し、図1に示した。各特長を挙げると、暖色嗜好群は「抑うつ性大」「神経質」「主観的」「攻撃的」、寒色嗜好群は「抑うつ性小」「攻撃的」「のんき」「支配性大」「社会的外交」、中性色嗜好群は「攻撃的でない」であるが、t検定では全性格特性においてグループ間に有意差は見られなかった。
本研究では上記のような結果であったが、先行研究では暖色型は「客観的」「外交的」であり、寒色型は「主観的」「内向的」であるとしているため、一致しない。よって、色の嗜好とパーソナリティを論じる場合、暖色嗜好と寒色嗜好を対比する事は、余り有効ではないと考える。
2、色相嫌悪とパーソナリティ
図2より暖色嫌悪群は「気分の変化大」「劣等感大」「神経質」であり、寒色嫌悪群と中性色嫌悪群は「社会的外交」という特徴が見られた。しかしt検定では全性格特性においてグループ間に有意差は見られなかった。
嫌悪色にパーソナリティが現れる場合と言うのは、心の傷(精神的外傷)が関係していると思われる。神経症は白に対して恐怖を感じ、分裂病は赤に対してパニック症状になるなど、健常者とは異なる特異な意味をもっている。しかし、本調査では、嗜好率が高かった青と白に関しては、嫌悪率が0%であった。そのため、嫌悪色にパーソナリティが現れるとは考えられない。したがって、健常者における嫌悪色とパーソナリティの関係をパターン化する事はできないのである。
3、トーンとパーソナリティ
111色をトーン(明度と彩度を複合化したもので、色の調子が同一のものをグルーピングしたもの)別に分類したのだが、嗜好トーンあるいは嫌悪トーンが一部のトーンに集中してしまったため、トーン別にパーソナリティとの関係を検討することは不可能となった。これは、データ数が少なかったからではないかと考えられるため、今後はより多くのデータを重ねる必要がある。
4、色彩イメージ
図4・5・6は9個の尺度に対する刺激色(嗜好色、嫌悪色)の平均得点をプロフィールの形に示したものである。色相に関わらず、嗜好色はポジティブイメージ傾向にあり、嫌悪色はネガティブイメージ傾向にあることがわかる。特に弁別度が高いのは、「きれい−汚い」、「良い−悪い」であった。
以上述べて来たように、本研究では色彩嗜好または色彩嫌悪とパーソナリティについて検討を試みた。しかし、14色と紫色を用いた調査では先行研究のような結果が得られなかった。一致しないということは、研究テーマ自体に問題があるとも考えられるが、今後はデータ数をより増やしトーンとパーソナリティの検討が望まれる。
【参考文献】
松岡 武 1995 決定版色彩とパーソナリティ− 金子書房
千々岩 英彰 1983 色彩学 福村出版