山口 大輔
『対人関係による自己開示への抵抗感の違い』
key word: 自己開示、状況要因
【問題】
大坊・岩倉(1984)によって自己開示の対象人物の相違、状況要因とパーソナリティのもたらす効果を検証した研究がなされている。状況要因として、自宅、喫茶店、公園、手紙、電話、街の道端、の状況下での自己開示得点を測定したところ、認知された状況については男女とも自宅>手紙>喫茶店>電話>公園>街の道端という大小関係が示されている。しかし、この研究は開示対象として、身近な者、父、母、兄弟、同姓の友人、異性の友人を取り扱っており、親密度との相関は報告されていない。
これらの点をふまえ、本報告では、
@各種類の開示の対象者、特に新密度に重点を置いて設定し、より詳細に標的人物間の比較を行う。
A各種類の開示の方法を設定し、より詳細に状況要因の比較を行う。
B各々の開示内容別に男女の開示度を検証することを目的とする。
【方法】
調査対象者: 駒澤大学生193名(男子95名、女子98名)
調査材料:榎本の自己開示質問紙(Emotional Self-Disclosure Scale;以下ESDQと称する)の質問項目をもとに開示対象、開示方法の状況についての質問項目を作成した。標的人物としてはいずれも同姓で、親しい友人、知り合ったばかりの友人、見ず知らずの人の3者を設定した。開示方法としては直接話す、電話で話す、手紙で伝えるの3種類を設定した。
手続き:それぞれの開示対象に、それぞれの開示方法で、それぞれの開示内容を自己開示する場面を想定させ、その話しやすさを5件法で回答を求めた。
【結果と考察】
質問紙の項目はESDQの15の下位分類にしたがって構成されている。今回の研究ではその下位分類ごとに検証をおこなった。
@対象人物ごとの開示得点
親しい友人>知り合ったばかりの友人>見ず知らずの人との関係となり、親しい友人の開示得点は他の2者よりもずっと高かった。今回、「自分のことをよく知らず、再び会うことが無い」という想定で、「見ず知らずの他人ならば、これから付き合って行くであろう親友、知人に比べて深い開示が行われるであろう」という仮設は立証できなかった。おそらくこの理由は見ず知らずの他人という設定が被験者にとって想定しにくかった事が挙げられるであろう。見ず知らずの他人に対しての開示において、より親密度の高い人物に対しての開示よりも開示得点が高くなる要素は、開示者の情報の機密性が高いという点のみであると思われる。つまり、開示者にとって話しづらい開示内容であっても、2度と会うことの無い他人が相手であれば、その開示内容の情報の機密性が保たれると予想したのである。しかし、今回その設定を被験者に理解させることまでには至らなかったと思われる。
A開示方法ごとの開示得点
直接話す>電話で話す>手紙で伝えるの関係となり、対象人物が親しい友人である場合には直接話す開示が他の2つの開示方法よりもずっと高かったが、標的人物が知り合ったばかりの友人、見ず知らずの人である場合には電話で話す、手紙で伝えるにほとんど差は見られなかった。
B開示内容ごとの開示得点
趣味、意見、物質的自己の順に高く、精神的自己の情緒的側面、血縁的自己、身体的自己の性的側面の順で低い。
C男女の総合開示得点
身体的自己の性的側面以外は女子が男子を上回り、精神的自己の情緒的側面、血縁的自己の項目ではそれが顕著に見られた。性差と言う面では大学生の女子が男子よりも高い開示度を示す事が報告されている。本研究でも、性的側面は例外であったとしてもやはり女子の開示度は男子を上回っていた。
今回は条件を統制する為に標的人物が同姓である場合を想定したが、これが異性である場合には結果は異なるであろう。また、調査対象を大学生に限定したが、これも別の年代では別の結果が得られるであろう。更に「2度と会うことが無い」=「情報が漏れない」という意識を被験者に深く理解させた上での知人と他人の開示量の比較をするといったことも考えられる。
【参考文献】
榎本 博明 「青年期(大学生)における自己開示性とその性差について」
心理学研究 1987 第58号 91〜97
大坊郁夫 岩倉加枝 「自己開示におけるパーソナリティと状況要因の役割」
山形大学紀要 (教育科学) 1984 第8巻 第3号 315〜335