第 4 課 - レイヤ 1 : エレクトロニクスと信号
原子
- 原子核:陽子と中性子から構成される原子の中心部分です。
- 陽子:正電荷を持つ粒子で、中性子とともに核を形成します。
- 中性子:電荷を持たない(中性の)粒子で、陽子とともに核を形成します。
- 電子:負電荷を持つ粒子で、核の周りを周回しています。
物質
- 電気絶縁体
- 電気絶縁体または絶縁体は、電子が非常に流れにくいか、まったく流れない物質です。電気絶縁体には、プラスチック、ガラス、空気、乾燥した木材、紙、ゴム、ヘリウム・ガスなどがあります。これらの物質は、非常に安定した化学構造を持ち、電子が原子にしっかり結び付いた状態で周回しています。
- 電気導体
- 電気導体または導体は、電子が非常に流れやすい物質です。電子が流れやすいのは、最外郭電子が核とごくゆるやかに結び付いているため、容易に自由電子になるからです。室温の状態でも、これらの物質には電流のもととなる自由電子が多数あります。電圧をかけると、この自由電子が移動して電流が流れます。
- 電気半導体
- 半導体は、伝える電気の量を厳密に制御できる物質です。これらの物質は、周期表ですべて同じ列にまとめられています。半導体には、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)やガリウム砒素(GaAs)という合金などがありますが、最も重要な半導体は、小型電子回路として重宝されているシリコン(Si)です。
電気測定の用語
- 電圧
- 電圧(起電力(EMF)ともいう)は、電子と陽子が分離するとき生じる電気力、または圧力です。生じた力は、逆電荷の方に向かい、同一電荷からは離れようとします。バッテリ内では、化学作用によって電子がバッテリの負端子から解放され、(バッテリ内部ではなく)外部回路を通って逆の正端子に移動します。この電荷の分離によって電圧が発生します。摩擦(静電気)、磁気(発電機)、光(太陽電池)で電圧を生成することもできます。
- 電圧は「V」の文字で表します。起電力(electromotive force)の英文頭文字「E」で表す場合もあります。電圧の測定単位はボルト(V)です。ボルトは、電荷を引き離すのに必要な単位電荷当たりの仕事量を示します。
- 電流
- 電気流または電流は、電子が移動するときに発生する電荷の流れです。電気回路では、自由電子の流れによって電流が発生します。電気が流れる経路に電圧(電気の力)をかけると、電子が負端子(電子を押しやる端子)から正端子(電子を引き付ける端子)に向かって移動します。
- 電流は「I」の文字で表します。電流の測定単位はアンペア(Amp)です。アンペアは、経路の 1 地点を 1 秒間に通過する電荷の数を示します。
- 抵抗
- 電流が物質を流れるとき、程度の違いはありますが、電子の移動を妨げる力、すなわち抵抗が生じます。抵抗がごく小さいか、まったくない物質を導体といいます。電流が流れないか、流れが非常に限られる物質を絶縁体といいます。抵抗の程度は、物質の化学組成によって決まります。
- 抵抗は「R」の文字で表します。抵抗の測定単位はオーム(Ω)です。この記号はギリシャ語の大文字「Ω」(オメガ)に由来します。
- 交流(AC)
- これは、2 通りある電流の 1 つです。交流(AC)と電圧は、その極性または方向を変えることによって、時間につれて変化します。AC は、ある方向に流れた後で方向転換し、同じプロセスを繰り返します。交流(AC)電圧は両極に正端子と負端子を持ちますが、時間が経つとこの極性が変わって正端子が負になり、負端子が正になります。このプロセスがずっと繰り返されます。
- 直流(DC)
- これは、2 通りある電流の残りの 1 つです。直流(DC)は常に同じ方向に流れ、DC 電圧は同じ極性を保ちます。一方の端子は常に正で、もう一方の端子は常に負です。端子の正と負が変化または逆転することはありません。
- インピーダンス
- インピーダンスは、電流を妨げる力の合計です(AC 電圧と DC 電圧)。通常、抵抗という用語は DC 電圧に対して使われます。インピーダンスは、電子の流れがどの程度制限または阻止されるかを表す一般的な用語です。
- インピーダンスは「Z」の文字で表します。測定単位としては、抵抗と同じくオーム(Ω)を使います。
- 電圧、電流、抵抗の関係
- 電流は、回路と呼ばれる閉じたループ内だけを流れます。この回路は、伝導物質で構成され、電圧源を備えている必要があります。電圧によって電流が流れ、抵抗とインピーダンスによって電流の流れが妨げられます。こうした事実を知っていれば、電流の流れを制御できます。
- アース
- アースという用語はさまざまな意味で使われるので、その概念を完全に理解するのは難しいかもしれません。
- アースとは、地中に埋め込まれた配水管などを通じて建物に接触し、最終的には電気コンセントと間接的につながる地点を指します。みつまたプラグの電気機器では、第 3 のピンがアースになります。アースは、人体を守るために電子を地面に逃がす追加の伝導経路です。
- アースは、電気測定を行うときの基準ポイント(0 ボルト・レベル)も意味します。電圧は電荷の分離によって生じるので、電圧測定は 2 地点間で行う必要があります。電圧、電流、抵抗を測定するマルチメーターに導線が 2 本あるのはこのためです。黒い導線をアースまたは基準アースといいます。バッテリの負端子も 0 ボルトまたは基準アースとなります。
- オシロスコープ
- オシロスコープは、電気信号を調べるために使う重要な精密電子機器です。電気は正確な制御が可能なので、波形と呼ばれる計画的な電気パターンを作成できます。オシロスコープは、電波、電気パルス、電気パターンをグラフ化します。このグラフには、時間を表す x 軸と、電圧を表す y 軸があります。通常は、2 つの波形を同時に観察・測定できるように、y 軸電圧入力が 2 つあります。
信号
信号とは、期待される値の電圧、光パターン、変調電磁波のことです。これらの信号を使ってネットワーキングデータを送信します。
信号の一種としてアナログがあります。 アナログ信号には次の特性があります。
- 波状です。
- 電圧と時間の関係グラフが常に変化します。
- 自然界で一般的に存在します。
- 100 年以上にわたり、テレコミュニケーションで広く使われてきました。
もう一種の信号としてディジタルがあります。 ディジタル信号には次の特性があります。
- 電圧が離散的で、電圧と時間の関係グラフが断続的になります。
- 自然界よりもテクノロジーの世界で一般的です。
物理メディア上の 1 ビット
データネットワークは、ディジタル(バイナリ、2 ステート)システムに大きく依存しています。情報の基本的な構成要素は、ビットまたはパルスと呼ばれる 2 進数です。電気メディア上の 1 ビットは、2 進数の 0 または 1 に相当する電気信号です。たとえば、0 ボルトが 2 進数の 0、+5 ボルトが 2 進数の 1 といった単純なものもあれば、もっと複雑な符号化もあります。信号基準アースは、電圧を使ってメッセージを伝送するすべてのネットワーキング・メディアに関わる重要な概念です。
1 ビットに対して起こる次の 6 つの現象を検証しましょう。
- 伝搬
- 伝搬とは、移動することを意味します。NIC カードが電圧や光パルスを物理メディア上に送出すると、波状の矩形パルスがメディアを通じて移動(伝搬)します。伝搬とは、1 ビットを表すエネルギーのかたまりがある場所から別の場所へ伝わることです。エネルギーが伝搬する速度は、メディアの素材、メディアの幾何学的形状または構造、パルスの周波数によって異なります。ビットがメディアの一端から移動して、再び戻ってくるまでに要する時間を Round Trip Time(RTT;往復時間)といいます。他の原因による遅延がなければ、ビットがメディアの反対側に達するまでの時間は RTT/2 です。
- 減衰
- 減衰とは、たとえばケーブルが長すぎる場合などに、信号の強度が失われることです。言い換えると、信号からケーブルにエネルギーが渡されるときに、ビット電圧信号の振幅が失われます。炭素ではなく銅を使うなど、導線の素材を慎重に選び、また導線の幾何学的形状(形状と配置)を工夫することによって、電気減衰を抑えることはできますが、電気抵抗が存在する限り、ある程度の損失は避けられません。減衰は光信号でも起こります。光パルスがファイバを伝わるときに、光ファイバはエネルギーを吸収して散乱させます。この現象は、使用する光の波長や色を選ぶことで、最小限に抑えられます。また、シングルモード・ファイバとマルチモード・ファイバのどちらを使うかや、ファイバの素材に使うガラスの種類によってこの現象を抑えることもできます。これらの工夫を行っても、ある程度の信号の損失は避けられません。
- 反射
- 反射を理解するために、柔らかい布や縄跳びの一端を自分が持ち、もう一端を友人が持っていると考えてみましょう。それを通じて、「パルス」すなわち 1 ビットのメッセージを送信するとします。注意深く観察すると、送った波(パルス)の一部が自分の方に戻ってくる(反射する)のがわかります。
- 反射の現象は、電気信号で発生します。電圧パルスすなわちビットが不連続面に当たると、エネルギーの一部が反射します。このエネルギーは慎重に制御しないと、後のビットを妨げるおそれがあります。ここでは単一のビットだけに焦点を当てていますが、実際のネットワークでは毎秒数百万〜数十億ものビットを送信するので、パルスエネルギー反射を常に念頭におく必要があります。ネットワークで使用するケーブルと接続の種類によって、反射が問題になる場合とならない場合があります。
- 反射は光信号でも発生します。コネクタが機器に接続されている場合など、光信号がガラス・ファイバの不連続面に当たるたびに反射が起こります。この作用は、夜、窓から外を見るとわかります。鏡でもないのに、窓に自分の姿(反射)が写ります。無線波やマイクロ波が大気中でさまざまな層に当たったときも、この現象が起こります。
- 反射によってネットワークに問題が生じる可能性もあります。最適なネットワーク・パフォーマンスのためには、NIC 内の電気コンポーネントに合ったインピーダンスのネットワーク・メディアを選択することが重要です。ネットワーク・メディアのインピーダンスが不適切だと、信号が反射して干渉が発生し、それによって複数の反射パルスが生じるおそれがあります。電気や光、無線のいずれのシステムでも不適切なインピーダンスは反射の原因になります。エネルギーの反射がある程度に達すると、その余分なエネルギーの反射によってバイナリ(2 ステート)システムに混乱が生じることがあります。この問題は、すべてのネットワーキング・コンポーネントに慎重にインピーダンスを合せることで回避できます。
- ノイズ
- ノイズは、電圧、光、電磁気の信号に伴なう好ましくない要素です。電気信号からノイズをなくすことはできませんが、信号対ノイズ(S/N)比をできるだけ高く保つことが重要です。S/N 比は、信号の強さをノイズの強さで割る工学的な計算および測定方法です。この測定方法を使用すれば、不必要ではあるが避けることのできないノイズから、簡単に希望する信号を意図的に解読できます。つまり、各ビットはさまざまな信号源から不要な付加信号を受け取りますが、このノイズが大きすぎると、2 進数の 1 が 0 に、または 0 が 1 に変形して、メッセージが破壊される場合があります。
- タイミングの問題
- 分散は信号が時間とともに拡大する現象です。分散は、メディアの種類によって引き起こされます。分散のレベルが高くなると、ビットが次のビットに干渉し始めて、前後のビットに影響を及ぼします。1 秒間に数十億ものビットを送信するので、信号を分散させないように注意する必要があります。分散は、適切なケーブル設計を採用し、ケーブル長を制限し、適切なインピーダンスを選ぶことで解決できます。光ファイバでは、特殊な波長を持つレーザー光線で分散を制御できます。無線通信の場合は、送信に使用する周波数で、分散を最小限に抑えることができます。
- ディジタル・システムはすべてクロック制御されています。つまり、すべての動作がクロック・パルスに基づいています。クロック・パルスによって、CPU が計算を実行し、データがメモリに書き込まれ、ビットが NIC カードから送信されます。送信元ホストのクロックが宛先ホストのそれと同期していない場合は、タイミング・ジッターが発生します。つまり、ビットが予測より少し早くまたは遅く宛先に到達します。ジッターは、ハードウェアとソフトウェアの同期やプロトコルの同期など、一連の複雑なクロック同期によって解決することができます。
- レイテンシ(遅延ともいう)の原因は、主に 2 つあります。まず、アインシュタインの相対性理論では、「真空内で光の速度(3.0×108 メートル/秒)より速く移動するものはない」とされています。ネットワークの信号は、無線では真空内でも光よりやや遅い速度で伝わり、銅メディアでは 1.9×108 ? 2.4×108m/s、光ファイバでは 2.0×108m/s で伝わります。したがって、長距離送信では、ビットが宛先に達するまでに多少時間がかかります。もう 1 つの原因として、ビットが機器を通過する場合、トランジスタと電子機器によって別のレイテンシ(遅延)が発生します。レイテンシの問題は、インターネットワーキング機器、さまざまな符号化方式、各層のさまざまなプロトコルを慎重に使うことで解決できます。
- 衝突
- 2 台の異なるコンピュータから送信された 2 つのビットが共有メディア上に同時に存在するとき、衝突が発生します。銅メディアでは、2 つのバイナリ信号の電圧が加算されて、第 3 の電圧レベルが発生します。電圧レベルを 2 つしか理解できないバイナリ・システムでは、このような電圧の変化に対処できず、ビットが「破壊」されます。
変調と符号化
符号化とは、1 や 0 の情報を、次のような物理的な実体に変換することです。
- 電線上の電気パルス
- 光ファイバ上の光パルス
- 電磁波のパルス
この変換を行うための 2 つの代表的な方法が、TTL 符号化とマンチェスタ符号化です。
Transistor-Transistor Logic(TTL)符号化は、最も単純な方式です。この符号化の特徴は、高信号と低信号を使う点です。たとえば、2 進数 1 を +5 ボルトまたは +3.3 ボルトに変換し、2 進数 0 を 0 ボルトに変換します。光ファイバでは、2 進数 1 を明るい LED 光やレーザー光に変換し、2 進数 1 を暗い LED 光や無光に変換します。無線ネットワークでは、2 進数 1 をキャリア波あり、2 進数 0 をキャリアなしというように変換します。
マンチェスタ符号化は TTL より複雑ですが、ノイズの影響を受けにくく、同期状態の維持に向いています。マンチェスタ符号化では、銅線上の電圧、光ファイバ内の LED やレーザー光の明るさ、無線ネットワークにおける電磁波の強さが、状態の変化としてビットで符号化されます。マンチェスタ符号化では、低レベルから高レベルへの変化が 2 進数 1 に符号化され、高レベルから低レベルへの変化が 2 進数 0 に符号化されます。0 も 1 も信号に変換されるので、受信側ではクロックを効率的に回復できます。
変調は、符号化と密接に関連しています。変調とは、波を使い、それに情報を載せるために変更を加えることです。変調の概念を理解するために、キャリア波に変更を加えて、つまり変調してビットを符号化する 3 つの形態を見てみましょう。
- AM(振幅変調)- キャリア正弦波の振幅すなわち高さを変更してメッセージを伝えます。
- FM(周波数変調)- キャリア正弦波の周波数すなわち波の数を変更してメッセージを伝えます。
- PM(位相変調)- 波の位相すなわちある周期の始点と終点を変更してメッセージを伝えます。
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