国会図書館蔵『回文歌百首』
月はきつ
桜はらくさ
雪はきゆ
いつれ下より
かへる言の葉
〔風車塵の言の葉〕
千秋ことなきのつらに大福窓
笑寿なるものたはれ歌に年久しう
あそひ侍りて春は花の雲の
うへに聞えんと枝高きにも
たにさくをさゝけ秋は穂すゝきの
まねくにつれて月の都人にも
ましはりつゝとこしなへに楽しみ
くらしけるいとまにいつのころ
よりかおもひたちて廻文うた
よみおきつるを見るにその
数あけてかそへかたしこれを
友垣放生庵風月楼やつかれも
ともにめつるあまりそか中より
よくとゝのひけるを十くさはた
くさかいつけてほととほき
諸きん達へもしらしめむとなり
およそ廻文うたはいにし
うた人にもまれにして今大江戸
にかすまへられ名たゝるうし達
すら世にきこえたるよみ歌は
いとすくなかるへしよしさるにても
数々の廻文たから舟につみ
あまるまてもてりけるはかの
大福窓の名にやよりけむ
かへすかへすもゆかしきこと
にこそ
鈍々亭
文化十一甲戌初春 和樽
大福窓のあるじはその身熊谷に
すみてとし月久しくたはれ
うたの道にあそびわけて廻文
歌にたくみなることは数々の
よみ歌にいちしるし詞の海の
ふかきには八嶋の浪なほ
あさくほまれの世に高きには
ひよ鳥越もひくかるへしこの
人ぞこれみやびをの旗がしら
よみうたの剛の者には
ありける
至清堂捨魚
しるす
よしあしを何となにはのうらつたひ和歌ならぬ身は
馬鹿馬鹿しその道のりはしらぬひや心つくしの
かすかすもいくよねさめのあはちしまおろか鳴門の
うみつらをひろひあつむるもしほくさもの数ならぬ
ことのははつゝむにあまるやれころも袖つまあはぬ
かなたかひてにはたかひは四角もしよめぬたとへを
あきめくらふくらうならぬおのれのみみゝすの歌の
ふしもなくひるは人めをはちらひてぬるまのひまの
をりをりにかきつらねたるくわいふんは百くさあまり
ありあけのつきぬまさこのかすかすもそのひともしの
あやまりは三陀羅ほうし先せいのゆるし給へと
なほさらにたかへることのおほからんかし
もろきんたち
これをゆるし給へと 道友
ねかふのみ 笑壽
廻文百首
小松引
(1) しける葉のまたひけよもつまこのての こまつもよけひ玉のはるけし
七種
(2) やかてみつはなみさいさくななの野の ななくさいさみなはつみてかや
霞
(3) いてし日をけさのまやはたかすむらん すかたは山のさけおひしてい
同
(4) とほくまをこよかすみはる日のかけか のひるはみすかよこをまくほと
梅
(5) むめかなとさかりをまつはまひの園 いまはつまをりかさとなかめむ
同
(6)とめしをなぬきしかのもるこの花は のこるものかしきぬなをしめと
紅梅
(7)むめかなをのひしよまさるほかにたに かほるさまよしひのをなかめむ
野遊
(8)若くさの名はしらすみる友とちと もとる身すらし花のさくかわ
摘草
(9)をしきをそみつむらくさや名はしらし はなやさくらむつみそおきしを
草木花
(10)はるのみとまたるるけしきさく花は くさきしけるる玉とみのるは
帰鴈
(11)かりともよことちみやはたなかしもし かなたはやみちとこよもとりか
同
(12)をちこちへもしひとつれんもとりかり 友むれつとひしも越後路を
春鳥
(13)山のこしみよけなりとかなをはるは をなかとりなけよみしこのまや
春雪
(14)高根はるゆきのこしかちとほやまや ほとちかしこのきゆるはねかた
花
(15)さくら木のもとにみなはやけさもくも さけやはなみに友のきらくさ
滝花
(16)身のらくさきたるつれかなみなはなは なみなかれつるたきさくらのみ
春風春水
(17)はりほこるけとみなかせのきたるはる たきのせかなみとけるこほりは
上巳
(18)くさももちついくせのなひつまも子も まつひなのせくいつちもゝさく
汐干
(19)なみも沖ほとさきなかたしほひる日 ほしたかなきさとほきをもみな
柳
(20)よれつもて糸は川岸さやなきな やさしき若葉とひてつもれよ
子規
(21)もとつたそほとときすはやきつなけな 月やは杉戸とほそたつとも
同
(22)つゝきなきにねやいつ杉戸とほにはに ほとときすついやねにきなきつゝ
川辺躑躅
(23)なかしつゝなみのまのこる川のせの わかるこのまのみなつゝしかな
端午
(24)鎗ほのみさいくなりほことゝかゝか とゝこほりなくいさみのほりや
田植
(25)さとむれつひとめとほさへうたひゆひ 田うへさほとめひつれんとさ
螢
(26)なかれつき川もとめすむほたるかる たほむすめともわかきつれかな
納涼
(27)さ夜きつるけふそまたきしすゝ風か すゝしき玉そふける月よさ
社頭納涼
(28)やれとかしさひのみかきし鈴の音の すゝしき袖のひさしかれとや
歌人納涼
(29)よせたひさうたよみかよりすゝむらむ すゝりよかみよたう座いたせよ
露
(30)ゆつらしのさくをなてしこ萩の根の きはこしてなをくさのしらつゆ
同
(31)やとるつゆ玉は軒端の葉にしけし 庭のはきのはまたゆつるとや
朝顔
(32)はやみめとまたくらひ朝あさかほか さあさあひらく玉とめみやは
月
(33)きつるまま地もきよけらしけふのよの ふけしらけよきもちまゝる月
同
(34)さよてれはもちはのきはにきつるなる 月には木の葉地もはれてよさ
同
(35)はれつ見よきつるもはきの葉にてりて 庭のきはもる月夜みつれは
海辺月
(36)きつる道みないそさへてかく沖を くかてへさそいなみち見る月
同
(37)さ夜をきつすまにはまるくみつるなる つみくるまわにます月をよさ
田毎月
(38)なかきよのきつるみちもとこたしろし 田こともちみる月のよきかな
泊月
(39)きつる身もみなかとまりよねふけさけ ふねよりまとかなみもみる月
月明海上鴻鳫渡
(40)てりつうみきつしもなかのみなかりか なみのかなもし月見うつりて
初鳫
(41) なかきかしとふのはにてさはつかりか つはさてにはのふとしかきかな
菊
(42) さくな黄をはなのくきらしもとの根の 友しらきくの名はおきなくさ
名所苅
(43) なかくよふ四方はら玉のかしま山 しかのまたらはもよふよくかな
紅葉
(44) 山のおくほとしらぬ道身もしはし もみちみぬらしとほく尾のまや
九月尽
(45) やまのせかふゆかして葉の黄あかきか 秋のはてしかゆふかせのまや
冬枯
(46) やとよこのとひきし身さへふゆかれか ゆふへさみしきひとのこよとや
川辺落葉
(47) なかもみなわかるな岸におち葉せは 地をにしきなる川なみもかな
千鳥
(48) むれつとひなみのかすよりとちやら ちとりよすかのみなひとつれん
霜
(49) なかむらしおち葉も忍へふゆのよの ゆふへの霜は地をしらむかな
雪
(50) 消をしこの庭にたえなるゆきしろし きゆるな枝に葉にのこしおけ
同
(51) 軒しけきほとにはのまやきよき雪 よきやまのはにとほきけしきの
不二雪
(52) しらつもるゆきのたかねそきよしふし よきそねかたのきゆるもつらし
矢田野雪
(53) きゆらしなきよしこのまや矢田の野の 田や山のこしよきなしらゆき
鶴
(54) なかし日のいつのひまにかのほるつる ほのかにまひのついのひしかな
春亀
(55) 山みなの景はこのめかきよくさく よきかめのこは池のなみまや
松
(56) そたつまの葉にもりとみてのひるはる 日のてみとりもにはのまつたそ
竹
(57) やふにはのなひけたるさまにきはひは 木にまさるたけひなのはにふや
士
(58) とひてかや名はゆみとりとかたきよき 高とりと見ゆはなやかてひと
農
(59) 来て見つらはたむらかたやくさおひを さくや田からむたはらつみてき
工
(60) 二かひたく高きかみの間たいくよく いたまのみかきかたく大家に
商
(61) かひたしの利うるさまにやひとの身の とひやにまさるうりのしたひか
鍛冶
(62) てしや子とつなかえのつちかとほの音の ほとかちつのえかなとこやして
賀
(63) 日ころよき家内はよつきつつくとく つつきつよはひなかきよろこひ
社頭祝
(64) 樂て身の夜みやきよめし鈴かけか すすしめよきや御代のみてくら
和歌三神
(65) 和歌のなみ代々玉津しま人と人 とひましつまた世々みなの川
神祇
(66) きとうたはまさしよき身か神の坐の みかゝみきよしさまはたうとき
同
(67) つゝみつをこそかなへうるすみの江の 見するうへなかそこをつみつゝ
釈教
(68) 品もなくほとけのをしへみつの世の つみへしをのけとほくなもなし
同
(69) つみはうく聞く身つねかし月の日の きつしかねつみ茎くうはみつ
同
(70) なかるへき水きよけらし川の辺の わかしらけよきつみきへるかな
恋
(71) しらぬ身かついおもひ出しくときなき とく下ひもをいつかみぬらし
<2005.08.28更新以下継続中>