「花粉症の地理学」
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花粉アレルギー発症のしくみ
アレルギーは、人間の抗原抗体(免疫)反応です。
体の中に異物が入ったとき、人間の体の中には抗体ができます。
抗体は、次に同じ異物が入ってきたときに、
体の中に入れないようなはたらきをしてくれます。人間の正常な生体反応です。
ほこりっぽい日にくしゃみがでるのは、自然なことなのです。
けれど、この反応が過剰になりすぎてしまうのがアレルギーです。
必要以上にくしゃみがでたり、鼻水がでたり、涙が出たりします。
花粉症に関係の深い抗体はIgE(免疫グロブリンE)抗体と呼ばれているものです。
マスト細胞という土台に抗体が多数くっついているわけですが、
異物が侵入すると、抗体と異物が結びつき、
マスト細胞からは化学物質が放出されることがわかっています。
この化学物質が鼻の粘膜などを刺激して花粉症の症状を引き起こします。
花粉アレルギーの症状には個人差があります。
一般にIgE抗体が多くなると、花粉症の症状を発症し、症状が強くなるようです。
花粉症は、長期間花粉の暴露を受け、体にどんどん抗体が増えていって、
ある年、突然発症する場合が多いようです。
花粉症自体は、IgE抗体によって、引き起こされますが、
たんぱく質を多くとる食生活の変化や大気汚染物質などもIgE抗体を
増やすのではないかと疑われ、専門家による調査が行われています。
ヒト免疫グロブリンの分類(Immunoglobulin)
IgG | 70〜75% | 血漿中に最も多い抗体、ウィルス細菌、 真菌などの病原体から生態を守る。食物アレルギーに関連 |
IgM | 約10% | 血中に存在。感染微生物に対し初期免疫をつかさどる。 感染症の診断に利用される |
IgA | 10〜15% |
血清、鼻汁、唾液、母乳、腸液に存在。 |
IgD | 1%以下 |
骨髄やリンパ節、脾、唾液腺、乳腺、扁桃、腸管粘膜などに存在、 |
IgE | 通常は 0.0001%以下 |
寄生虫に対する免疫反応に関連 |
花粉症の歴史
花粉症はかつては「枯草熱(こそうねつ・hey fever)」と呼ばれていました。
花粉症とみられる最も古い症例の報告は、1819年のボストックのものです。
当時は枯れ草と接触して症状が出ると考えられていました。
1873年にイギリスのブラックレイが、イネ科の植物の花粉によることをつきとめました。
これが、世界で始めての花粉症の発見です。
日本において、花粉症の研究が進んだのは最近40年くらいのことで、
欧米に比べると、研究の歴史は浅いといえます。
太平洋戦争終了後、米軍が日本に進駐してきた時に、
GHQは当時の厚生省に花粉の資料の提供をもとめました。
なぜなら、ブタクサ花粉症の米兵がいたからです。
当時、日本では花粉症の研究が行われておらず、花粉観測データもなかったので、
厚生省の役人はGHQの要求の意味がわからず、困惑したとの逸話が伝わっています。
わが国最初の花粉症報告例は、荒木英斉博士によるブタクサ花粉症です。
東京周辺で空中花粉調査を実施して、1961年に学会で報告しています。
また、栃木県日光市で春先に鼻や目の症状を訴える患者が多く、
その原因を調査していた斉藤洋三博士は、日光杉並木を見て、
スギ花粉アレルギーを疑い、1963年にその因果関係を明らかにしました。
これが、日本特有のスギ花粉症の発見です。
現在では、シラカバやハンノキ、アブラナからイチゴまで、
あらゆる花粉が花粉症の原因として突き止められています。
木本花粉症(報告年) | 草本花粉症(報告年) | |
1960年代 | スギ(63)コナラ(69)シラカンバ(69) | ブタクサ(61)カモガヤ(64)ライグラス(65) カナムグラ(68)ヨモギ(69) イネ科喘息(69)テンサイ(69) |
1970年代 | キョウチクトウ(70)ハンノキ(70) クロマツ(74)アカマツ(75) ケヤキ(75)クルミ(76)モモ(77) イチョウ(78)バラ(78) リンゴ(78)アカシア(79) |
スズメノテッポウ(70)ヒメガマ(71) ケンタッキー31フェスク(71)ハルジオン(72) イチゴ(72)キク(73)ヒメスイバ(73) 防虫菊(74)カラムシ(75)タンポポ(76) セイタカアキノキリンソウ(77) イエローサルタン(79) |
1980年代 | ヤナギ(80)ウメ(80)ヤマモモ(80)ナシ(81) ブドウ(84)クリ(84)コウヤマキ(84) サクランボ(85)ツバキ(89)オオヤシャブシ(89) |
コスモス(82)ピーマン(83) スズメノカタビラ(85) ナデシコ(86)アフリカキンセンカ(87) |
1990年代 | ミカン(93)ネズ(94) オリーブ(94)イチイ(95) マキ属(98) |
スターチス(90)アブラナ(91) グロリオリサ(92)ウイキョウ(94) オオバコ(98) |
2000年代 |
トマト(00)スゲ属(03) |
花粉症と口腔アレルギー
スギ花粉アレルギー患者の7割はヒノキ花粉でも症状があると言われます。
また、気の毒な方は、さらにブタクサ(夏の終わり〜秋)にも花粉症にやられます。
共通抗原でわかっているものを表にまとめました。
カバノキ科の花粉症は、果物を食べると口の中が痒くなったりする場合があります。
これを口腔アレルギー症候群(OAS,oral allergy syndrome)といいます。
花粉 | 陽性率 | 共通抗原 |
スギ | アレルギー性鼻炎の80%が陽性 | ヒノキ(約7割) |
ブタクサ (キク科) |
花粉症患者の30%が陽性 | ヨモギ セイタカアキノ キリンソウ |
シラカバ (カバノキ科) |
北海道アレルギー患者の25%が陽性 長野アレルギー患者の16%が陽性 |
カバノキ科、ブナ科 リンゴOASが59% |
ハンノキ ヤシャブシ (カバノキ科) |
兵庫県が六甲山周辺に植林 アレルギー患者の10%程度が陽性 |
カバノキ科、ブナ科 リンゴ、ナシ、キウイ メロン、トマトOAS |
カモガヤ (イネ科) |
花粉症患者の30%が陽性 スギ・ヒノキ花粉症に次いで多い |
ケンタッキー31 スズメノテッポウなど イネ科多数 |
花粉の飛びやすい時間帯
2006年の3か月分のデータを用いて花粉の飛びやすい時間帯を調べたものです。
1日の合計数が100となるように毎日の花粉数データを調整した上で、時刻毎の平均を取っています。
環境省の自動観測システムによるデータを使用しました。