ナイト的不確実性と情報の価値
これまでは確率分布が知られる決定環境(リスク状況)における情報システムの価値について議論してきたが、確率分布すら知られないより厳しい不確実環境(「狭義の不確実性」あるいは「ナイト的不確実性」とよばれたりする)においてはどのような議論ができるであろうか。
11 Newsboy問題
まず、「Newsboy問題」(新聞売子問題)あるいは「クリスマス・ツリー問題」といわれる意思決定問題を用いて、確率分布が知られない決定環境における決定基準について説明しよう。
設例4.1[Newsboy問題]
ある商品の仕入原価が3ドルで販売価格が6ドルであるとする。また、売れ残った場合、その商品の価値はその性質上1ドルでしか売れないものとする。次期の需要は、新しい商品であるため確率分布すらわからず、需要のある領域(範囲)しか予想できないとする。ここでは、説明の便宜上、需要が0単位から3単位までの範囲の整数値をとるとしたとき、利得表を示し以下の4つの基準によるそれぞれの最適仕入数を示せ。(3)のハーヴィッツの基準については、αの値が何を表しているかも吟味せよ。
(1)最も強気な決定基準(
(2)最も弱気な決定基準(
Max.Min基準):各行動の最小利得の最大化(3)両者の折衷的な決定基準(
ハーヴィッツの基準):各行動の[最大利得×α+最小利得×(1-α)]の最大化
(4)同程度の確からしさでおこると想定する決定基準(
ラプラスの基準):各行動の合計利得の最大化12 2つの機会損失とそのジレンマ
論点12ではNewsboy問題に典型的にあらわれる2つの機会損失とそのジレンマ、およびそのジレンマをどのように解決するかについて議論する。
設例4.2[Newsboy問題と2つの機会損失]
設例4.1につき機会損失表を示し、以下の問に答えよ。
(1)各仕入行動(代替案)につき最悪の状態を想定してそのなかで最善の行動をとるとき(
(2)2種類の機会損失を示し、機会損失表の左右両端の数値はそれぞれ何を示しているか検討せよ。両者は一般的にどのような関数として表されるか。そもそも2つの機会損失はどうして発生するか、両者のかかわりにおいて吟味せよ。
(3)需要が0単位から20単位までの実数値をとるとき、タテ軸を(最大)機会損失、ヨコ軸を仕入数として、最適仕入数を図示せよ。
(4)★ Min.Max基準による最適行動は、2つの機会損失のジレンマをどのように解決しているか吟味せよ。
13 選択と不確実性のコスト
これまで確率分布が知られない決定環境における決定基準と最適行動の性質について説明してきたので、論点13ではその環境下での選択に関する不確実性のコストおよび領域を限定する情報(領域限定情報)の価値について議論する。
設例4.3[選択に関する不確実性の金額的度合(コスト)]
設例4.2に関して、
(1)次期の需要がΘ=[0,1,2,3]の領域しか知られないような決定環境下での選択にともなう不確実性は、金額的にどのように評価することができるか。また、Θ=[0〜20]のときはどうか。
(2)不確実性の評価額(コスト)は2つの要素から構成される。それぞれは何であるか吟味せよ。
(3)不確実性のコストが60ドルを超えるなら、この商売から手を引くとするとき、この商売をおこなうにあたり次期の需要の領域の大きさの限界を求めよ。
(4)次期の需要の領域がΘ=[2,3]と半分に限定される、より確かな情報を得たとき、その情報に対して何ドルまで支払うことができるか。また、Θ=[10〜20]のときはどうか。