現場で学ぶベトナムスタディツアー ― 吉田健太郎ゼミ × 長崎県立大学・大久保文博ゼミ ―
経済学部・吉田健太郎ゼミでは、「現場主義・実践主義」を重視し、机上の学びだけではなく、実際の現場に足を運ぶ教育・研究活動に取り組んでいます。そのゼミ活動の一環として、2025年9月6日〜9月14日、ベトナムのホーチミンとハノイにてスタディツアーを行いました。
このスタディツアーは、長崎県立大学の大久保ゼミとの合同企画であり、「中小企業・起業家の海外進出成功要因の研究」をテーマに吉田先生と大久保先生の引率・指導のもとで事前調査や議論を重ねたうえで実施されました。両ゼミ生は業界ごとに編成された五つの班(繊維・小売・IT・日用品・食品)に分かれ、事前調査で仮説を立てた上で、企業へのアポイントを取り、訪問に至るまで調査にむけた準備を主体的に進めました。
現地ではジェトロをはじめ多くの日系企業を訪問し、参与観察を通じて、海外進出の背景や現地で直面した課題、意思決定のプロセス、ネットワークの使い方などを伺いました。その中で、海外進出の可否は、事前に立てた計画そのものよりも、現地で生じる想定外の状況に対して、どのように判断し、柔軟に対応していくかに大きく左右されることに気づきました。特に、資金や人材といった経営資源が限られている起業家や中小企業は、自社ですべてを抱え込むのではなく、現地パートナーやネットワーク、さらには母国の既存のネットワークを積極的に活用しながら、事業範囲や役割分担を柔軟に調整することで、その制約を乗り越えていることが分かりました。
また、市場調査では店舗や街の観察に加え、生活者への聞き取り調査も行い、机上だけでは捉えにくい消費者行動や商習慣を具体的に把握しました。価格や商品・サービスの違いをみるだけでなく、「なぜその商品・サービスが選ばれるのか」「どのような場面で利用されているのか」という点に着目しました。その結果、日本と同じ品質や機能をそのまま提供することよりも、現地の生活リズムや食習慣、利用シーンに合わせて内容や提供方法を調整している商品・サービスほど、生活の中に自然に受け入れられていることを理解しました。
こうした現地での観察を通じて、事前に設定していた「大企業・中小企業・起業家・市場を横断的に捉える」という研究テーマについて、規模の違いによって成功要因にどのような差が生まれるのかを、具体的な事例を通して実感をもって理解できるようになりました。その結果、大企業・中小企業・起業家・市場という異なる立場を横断的に検証することで、業界ごとの共通点と違いがより明確になり、研究の解像度が高まったと感じています。一方で、限られた時間内で自分たちが欲しい情報を得るための質問の設計や仕方、調査の段取りなどには課題が残り、整理し改善しなければならないものも多く出てきました。「何を明らかにしたいのか」を十分に言語化できていなかったことや、相手の話を深く掘り下げる質問ができていなかったことなど、調査手法そのものに課題があることが明確になりました。今回出てきた課題を整理し、次回以降の調査に活かしていきたいと考えています。
帰国前日の最終日にはベトナムにある日越大学での発表および交流会も行いました。調査してきた内容を英語で資料にまとめ発表することは苦戦をしましたが、新たな挑戦となりました。他者に伝える過程で、自分たちの理解が曖昧だった点や、論理の整理が不十分だった点が明らかになり、研究内容を見直す重要性を実感しました。現地のベトナムの学生とも意見交換や交流会を行い新たな視点に触れる有意義な機会となりました。
また、帰国後の2025年10月18日に大久保ゼミを駒澤大学駒沢キャンパスに招待し、合同発表会を行いました。質疑応答や意見交換を通して、現地でしてきた質問の意図や、そのヒアリングから導き出した結果など、見えなかった視点が明確になり、研究をより一段と深める機会となりました。今回のスタディツアーや合同発表会を通じて、長崎県立大学・大久保文博ゼミの皆さんと共に学ぶ機会を得られたことに、心より感謝しています。同じ調査であっても、大学や班によって方法論、着眼点や解釈が異なることを知り、物事を一つの見方に固定せず、複数の視点から考える姿勢が養われました。
来年度も大久保ゼミとのベトナムスタディツアーを実施する予定です。引き続き交流を深めながら、実地的な研究を通じて社会に貢献できる学びへと発展させていきたいと考えています。
経済学部吉田健太郎ゼミ3年 小澤健大
現地で創業した日系中小企業を訪問した際の様子
経済学部