2025年度経済学部奨学論文受賞者の研究報告

2025年度経済学部奨学論文において佳作を受賞した山中公葵さんによる研究報告です。

論文タイトル:
1990年代以降のシンガポールにおける華人アイデンティティの変容 
─「旧華人」と「新華人」の関係性を中心に─

山中公葵

このテーマを選んだ理由
 多民族国家として発展を遂げるシンガポールでは、「シンガポール人らしさ」と呼べるものはあるのだろうか。この疑問から、シンガポールに住む華人を研究しようと考えた。シンガポールに住む華人には、イギリス植民地時代から移住してきた旧華人と、1990年以後に新しく渡航してきた新華人がいる。本研究では、とくに新旧華人間の対立・摩擦要因について、国民アイデンティティの面から検討を行った。

研究結果について
 イギリス植民地時代のシンガポールでは、植民地政府は自由放任主義であったため、旧華人同士で支え合って生活することが必要であった。そのため、相互扶助組織である「幇」や「華僑会館」を設立し生活していた。彼らは相互扶助組織内で方言や祭祀などを継承してきたため、異郷の地・シンガポールで華人アイデンティティが喪失することはなかった。しかし、同時に「幇」や「華僑会館」に属している華人以外との繋がりはほとんどなかった。
 しかし、1963年にイギリスの植民地支配から脱却し、1965年に単独共和国としてマレーシア政府から独立した後、国家統合を目指すシンガポール政府の政策としての民族混住型の住宅政策によって、シンガポール華人の脱「幇」・「華僑会館」化が進んだ。また、異なる種族間の共通語として英語を第一言語とする教育政策が実施された。その結果、シンガポール華人は、シンガポール人アイデンティティと呼ぶべき新たなアイデンティティをもつようになった。これに対して、1990年以降にシンガポールに移住してきた新華人には、華人国家としてシンガポールを理解し、また中国への強い帰属意識をもつために、新たなシンガポール人アイデンティティに溶け込もうとしない傾向がある。その結果として、同じ中国にルーツを持つにもかかわらず、新しくシンガポール人アイデンティティを確立した旧華人と、華人アイデンティティを保持する新華人の間で、対立・摩擦が生じるに至っている。

山中卒論発表会その2山中卒論発表会_加工済_その1