歌右衛門の六十年 : ひとつの昭和歌舞伎史(中村歌右衛門, 山川静夫著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2026.03.02

書名 「歌右衛門の六十年:ひとつの昭和歌舞伎史
著者 中村歌右衛門, 山川静夫
出版社 岩波書店
出版年 1986年
請求番号 080/14-328
Kompass書誌情報

昨年(2025年)は、空前の大ヒットとなった映画『国宝』の影響もあり、日本人の歌舞伎に対する関心も大いに高まりました。特に劇中で演じられた「二人道成寺(ににんどうじょうじ)」の艶やかさは、主役を演じた吉沢亮さんと横浜流星さんの「美しさ」ともあいまって特に話題になりましたね。

その「道成寺」を十八番(おはこ)のひとつとして活躍し、第二次世界大戦後の歌舞伎界で最大の女形(おやま)となり、戦後歌舞伎を主導したのが六代目の中村歌右衛門(19172001)でした。本書はその歌右衛門に人生と芸についてインタビューし、戦前・戦中・戦後の日本と歌舞伎界との関わりを余すところなく伝えてくれる快著です。聞き役は、長年NHKで古典芸能関係を中心に名アナウンサーとして数々の名舞台を紹介してくれた、山川静夫さんです。歌舞伎の歴史に関する補足は随筆家でもある山川さんが書いています。

戦前の歌舞伎界で最高峰だった五代目歌右衛門の次男として生まれた六代目は、幼少時に足に障害を持ったのですが、持ち前の努力と天性の美貌により、父と同じく立女形として戦後の歌舞伎をリードしていきます。もちろん彼自身も「人間国宝」として顕彰されて、後進の指導にも積極的にあたりました。

歌舞伎という近世(江戸時代)に生まれた演劇をいまの世に受け継いでいく難しさ、女形としての心得など、芸事に限らず、ひとが生きていくうえでも多くの示唆を与えてくれる名著です。まだ『国宝』をご覧になっていないかたも、本書を読まれてから鑑賞されると、映画の内容に関する理解がより深まるかもしれませんね。

法学部 教授 君塚 直隆

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