パリが沈んだ日(佐川美加著)
Date:2026.10.01
書名 パリが沈んだ日
著者 佐川美加
訳者 山崎庸一郎
出版社 白水社
出版年 2009年
請求番号 369.3/276
Kompass書誌情報
この夏も、日本列島で洪水が多発して尊い人命が失われました。「人類と自然環境の関係史」を研究している私としては、やるせない気持ちでいっぱいです。私の研究テーマは、学部生や大学院生の時から一貫しています。バブルの余韻がほんの少し残っていた当時、私に対して「そんな研究していると食っていけないよ。人類は都市をつくって、自然を克服したんだよ。」と多くの方が忠告してくれました。それから30年ほどが過ぎ、私は「なぜ、自然に対して脆弱な都市が誕生したのだろう」という問題に焦点を当て研究を進めています。人類の住まい方の歴史にはいくつか画期があるのですが「自然による制約を排して、思い通りに住む」ということを大々的に実践したのはローマ人だと思います。
皆さんご存じの「花の都パリ」ですが、この街も洪水に悩まされてきたことを知っている方は少ないと思います。1919年のセーヌ川の氾濫は大規模なものでした。この洪水に焦点を当てたのが『パリが沈んだ日』です。地理学者である佐川氏は、単に洪水被害の様子を描いただけではありません。なぜ、パリの市街地で洪水被害の程度に差異が生じたのかという点について、街の形成史を明らかにしながら紐解いています。街の起源から、その拡大の様子を地形環境と結び付けて繰り広げられる「検証作業」は、まるで上質のミステリーを読んでいるような錯覚に読者を陥らせます。
ところで、「パリの発祥はシテ島である」と多くの本には記述されてきました。そこに居住していた人々を征服して、ローマ人が街をつくったというのも定説ですね。佐川氏は、本書と『凸凹で読みとくパリ』で、その説を根底から覆します。どのような新説が提示されたのか、是非これらの本を読んで確認してください。そして、実際にパリに行って街を歩いてください。花の都の違った側面が見えてくると思います。
文学部 教授 小野映介