「企業経済学a」のゲスト講演報告
岡室博之先生が担当される「企業経済学a」授業のゲスト講演が現代応用経済学科ラボラトリとの共催企画として下記の通り実施されました。
日時
:2026年7月10日(金)1時限(9:00から10:30まで)
ゲスト講師 :小田切宏之先生(公正取引委員会顧問・元委員、一橋大学名誉教授)
講演タイトル:公正取引委員会主催「独占禁止法教室」
「競争なくして成長なし ―競争政策の意義と実際―」
以下は、2026年度現代応用経済学科ラボラトリ学生広報委員の金城妃恵さんによる受講報告です。
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公正取引委員会主催の「独占禁止法教室」である「競争なくして成長なし ―競争政策の意義と実際―」を受講し、私たちが普段何気なく利用している買い物やサービスが、どのような仕組みやルールによって支えられているのかを深く考えるきっかけとなった。
普段の生活において買い物やサービスを利用するとき、その価格がどのように決まっているかを深く意識することはほとんどないだろう。しかし、本ゲスト講演において、市場における自由な競争が保たれているからこそ、価格が生産に必要な費用(限界費用)に近づき、消費者の満足感である「消費者余剰」が最大化されるという経済学の理論を知り、その重要性を再確認することができた。
例示にもあったように、もし企業同士が話し合い、手を組んで価格を不当に吊り上げたり、一社が市場を独占したりしてしまえば、消費者は高いお金を払わされたり、買いたいものが買えなくなるだけでなく、市場における効率的な資源配分が損なわれる「社会的厚生の損失」が生まれてしまう。公正な市場競争は単に企業同士が競い合うだけでなく、私たち消費者の暮らしを守るため、また、限られた資源を最適に分配するためには必要不可欠なシステムなのだと実感した。
また、競争政策が市場価格の適正化や最適な資源配分の実現だけでなく、「イノベーション」を生み出す原動力になっているという説明も非常に印象的だった。独占企業は新商品を開発したとしても、自分の既存商品の売上を奪う「置換効果」を恐れて開発に消極的になる傾向があるが、競争環境に置かれた企業はライバルに負けないために必死で新しい技術や商品を開発しようとする。まさに、講演タイトルにある「競争なくして成長なし」というフレーズの意味を理解することができ、社会全体が便利で豊かになっていく背景には、競争環境が大きく関係しているのだと気づかされた。
こうした市場のルールを守るために「独占禁止法」が存在し、公正取引委員会が厳しい取り締まりを行っていることも学んだ。なかでも特に身近に感じられた事例として、愛知県で起きた高校の制服の販売業者による価格カルテルであった。制服という学生にとって最も馴染みのある商品で不当な価格決定が行われていたことや、公正取引委員会が是正措置をとった後に制服の価格が相対的に下がったというデータを見て、法制度による取り締まりが遠い世界の話ではなく、自分の生活に直結しているのだと実感した。また、違反行為を自主的に申告して企業の課徴金を減額する「リニエンシー制度」のように、密室で行われがちな不正を内部から崩壊させる巧みな工夫がなされている点も興味深かった。そして、枚挙に暇がないカルテルや談合の実態と、その規制・取り締まりの在り方については、社会経済の普遍的な問題・課題であることを理解することができた。
講演の後半では、豊富な事例紹介の中で巨大 IT企業(GAFAM等)を巡るプラットフォーム市場の競争政策についても言及され、現代のデジタル社会を生きる私たちにとって極めてタイムリーな課題であると感じた。検索エンジンや SNS、アプリストアなどは生活に欠かせないものになっているが、その裏では利用者が増えるほど利便性が増す「間接ネットワーク効果」や「データ・フィードバック効果」が働き、先行した巨大企業が市場を独占しやすい構造になっているという。これにより新規参入が困難となり、巨大企業が自社サービスを不当に優遇するようになれば、結果として技術革新が停滞し、消費者の選択肢も奪われてしまうことに問題を感じた。また、利用者の購買・サービス利用実績、検索履歴、位置情報などがプラットフォーム企業側に収集されているという事実にも注意が必要であると考えた。
具体的な対策としては、日本でも2025年末から施行された「スマホソフトウェア競争促進法」によって、自社サービスの優先表示が禁止されたり、初期設定で別のブラウザや検索エンジンを選べる「選択画面(チョイススクリーン)」が導入されたりしたことを知った。これは実際に自分のスマホでも選択画面が表示されるようになり、「なぜ突然このような画面が出たのだろう」と疑問に思っていたが、これがまさに巨大企業の独占を防ぎ、市場の健全な競争を守るための法律に基づく取り組みだったのだと理解することができ、点と点がつながったような感覚を覚えた。
ゲスト講演から市場経済における「自由」と「ルール」のバランスの重要性を学ぶことができた。企業が自由に利益を追求すること自体は経済の活力になるが、ルールがなければ力のある巨大企業が独占を図り、不公正な市場になってしまう。経済学部現代応用経済学科で学ぶ私たちは、例えばスマートフォンや各種サービスをただ便利に使っているだけの「受け身の消費者」でいるのではなく、その背景にある市場の仕組みや競争のあり方に関心を持ち、公正で持続可能な社会・経済の仕組みやルール作りにまで課題・問題意識を持つべきであると実感し、自分自身の視野が大きく広がった。
経済学部