情報の非対称性と行動経済学、医療機器業界の概要

2026年6月2日の「現代マネジメントⅠ」では、経営支援NPOクラブの杉田一志氏と大橋康昌氏にご講演いただきました。経営支援NPOクラブは、企業でキャリアを積まれた方々を中小企業などに派遣し、経営支援や指導を行っている団体です。今回は、大橋康昌氏の出身企業であるテルモ株式会社人事部の廣瀬美緒氏、ならびに経営支援NPOクラブ理事の板谷厚子氏にもご参加いただきました。

202606291.jpg
【ご講演前の記念撮影(左から:板谷氏、杉田氏、大橋氏、廣瀬氏)】

■「情報の非対称性と行動経済学」 杉田一志

情報の非対称性とは、経済的な取引を行う際に、取引当事者全員が同じ情報を持っているわけではなく、一部の者に情報が偏在する現象を指します。
レモン市場の法則とは、売り手と買い手の間に情報格差(情報の非対称性)が存在することで、市場に品質の低い商品の「レモン」ばかりが流通し、品質の高い商品の「ピーチ」が市場から駆逐されてしまう現象を意味します。
中古車市場では、本来の価値を正しく示す売り手が市場から排除され、虚偽の表示を行う売り手だけが市場に残ってしまうことがあります。これをアドバースセレクションといいます。就職市場においても、企業と学生の間でアドバースセレクションが生じる可能性があります。そのため、就職活動では自分が現在何に取り組んでいるのかを具体的に伝えることが重要であると、杉田氏はアドバイスされました。
今後もグローバル化やIT化の進展により、情報の非対称性が高い社会は続くと考えられます。その中で、情報の非対称性をいかに味方につけるかが、ビジネスの成否を左右する要因になると杉田氏は指摘されました。
また、行動経済学は、人々が日常生活において常に自らの幸福を最大化するよう合理的に意思決定しているわけではないことを明らかにしています。
最後に杉田氏は、「志望する企業が行動経済学を生かしたビジネスを展開しているかという視点を持ち、ぜひ調べてみてください」と学生たちに呼びかけました。

202606292.jpg
【ご講演中の杉田氏】

■「医療機器業界の概要」 大橋康昌氏

大橋氏は北海道生まれで、1983年にテルモ株式会社へ入社されました。腎・透析事業部長を経て、日中合弁会社の取締役副社長を歴任され、現在も同社のアドバイザーを務めています。
大橋氏からは、以下のテーマについてお話しいただきました。
① 医療の世界とそのイメージ
② 医療機器市場と医療機器メーカー、医療機器の分類、日本の医療機器の現状
③ 医療機器業界の参入障壁
④ 医療機器業界における事業ポートフォリオとM&A
⑤ テルモの紹介と企業理念「医療を通じて社会に貢献する。」
⑥ 医療機器業界の仕事と求められるビジネス人材
⑦ まとめ

202606293.jpg
【大橋氏のご講演】

学生からは、文系出身者の仕事内容、M&Aはどのカンパニーで実施されているのか、新技術の導入と信頼性との関係、医療機器業界における情報の非対称性などについて、多くの質問が出されました。

202606294.jpg
【310名が出席】

以下、学生からの感想の一部を紹介します。

今回の講義を通して、医療機器業界が人々の命や健康を支える重要な役割を担っていることを学んだ。特に印象に残ったのは、医療機器の開発や販売には厳しい規制があり、安全性や品質が強く求められている点である。また、テルモがM&Aを活用して海外事業を拡大し、世界中の医療に貢献していることにも驚いた。さらに、医療機器業界では、理系だけでなく文系出身者も営業やマーケティング、経営戦略など幅広い分野で活躍できることを知った。医療機器メーカーは医師と協力しながら医療の発展に貢献しており、社会的意義の大きい仕事であると感じた。

一番の発見は、医療機器メーカーの役割が単なる製品の製造や提供にとどまらない点である。注射器に薬剤を事前充填することで医療ミスを防止し、現場の業務を効率化するなど、医療従事者が抱える課題の解決に深く関わっていることに気づかされた。また、高度な医療機器の適正使用を促すため、独自のモデルを用いたシミュレーショントレーニングを国内外の多くの施設で展開し、医師への教育・支援に注力している体制にも大変驚いた。人々の命や生活の質を支える高い公共性と社会的責任を担い、医師と緊密なパートナーシップを築きながら医療の発展に取り組み続ける姿勢に、強い感銘を受けた。

今回の講演を聞いて、医療機器業界がこれほど身近な存在でありながら、普段はまったく意識していなかったことに気づかされた。特に参入障壁の高さは印象的であり、薬機法による規制や臨床データの収集、医師からの信頼獲得など、「作ってすぐ売る」ことができない業界の特殊性を初めて理解した。また、日本が診断機器では強みを持つ一方で、治療機器では輸入超過という構造的な課題を抱えている点も意外であった。法学部出身の大橋氏が、営業から中国合弁事業の経営まで幅広く活躍されていたことは、学部・学科を問わず活躍できる業界であるという気づきにもつながった。将来の就職先の選択肢として、医療機器業界について真剣に考えてみたいと感じた。

講演後、学生からの多くの質問にも文書で答えて頂きました。大橋様、廣瀬様、杉田様ありがとうございました。

(M.M)