現場で学ぶ海外スタディツアー2026【ラオス編】― 吉田健太郎ゼミ × 長崎県立大学・大久保文博ゼミ ―
経済学部 吉田健太郎ゼミ3年 近藤早紀さんによる海外スタディツアーの報告です。
駒澤大学経済学部の吉田健太郎ゼミでは、長崎県立大学の大久保文博ゼミと合同で、ベトナムとラオスでの海外スタディツアーを実施しました。現地で活動する企業や起業家を訪ね、海外での事業展開について学ぶことが目的です。前回のベトナム編に続き、今回は2026年9月12日から16日にかけて訪れたラオスの首都ビエンチャンでの活動を紹介します。ベトナムでの学びを次の現場でどのように活かし、何に気づいたのか。企業訪問や現地での体験を通じて得た学びをお伝えします。
今回のラオスでの調査では、ベトナム調査と同様に「起業家・中小企業の国際化」について、ラオスへ進出した企業や現地で活動する起業家へのヒアリングを行いました。現地人材やネットワーク、環境、地域資源をどのように活かしながら、市場開拓や新規事業・現地発イノベーションにつなげているのかを伺いました。
ベトナムでのフィールドワークを終えたことで、ラオスでの調査に向けて、自分自身の中でも大きな変化がありました。
今回のスタディツアーでは、学生が主体となって事前準備からフィールドワークまで進めました。吉田健太郎先生と議論を重ね、フィードバックをいただきながら調べ、考える中で、現地で確かめたいことが明確になっていきました。企業がなぜその国への進出や起業を決めたのか、その目的が事業を進める中でどのように変化したのか。さらに、市場開拓や製品の現地化、人材の採用・育成、権限移譲、現地企業との関係についても、実際の経験をもとに具体的に伺いたいと考えました。こうした問いを事前に整理していたことで、訪問先でも、話を聞きながら「さらに何を聞くべきか」を意識できるようになりました。
実際の企業訪問では、吉田先生の質問の投げかけ方や、そこから話を深掘りしていく過程を間近で見ることができました。吉田先生は、相手の話を聞きながら、その背景にある考えや経験を捉え、次の質問につなげていました。また、話の内容だけでなく、相手の人柄や考え方を感じ取りながら会話を進めていく姿を見て、ヒアリングの進め方そのものから学ぶことが多くありました。特に印象に残っているのが、因果関係の深掘りです。「なぜそれが可能になったのか」「その出来事が次に何を生んだのか」「その後、行動がどのように変わったのか」と、一つの事実を聞いて終わるのではなく、その背景や変化の過程まで掘り下げて聞くことの大切さを教えていただきました。この視点を持つことで、企業の取り組みを表面的に捉えるのではなく、「なぜその結果につながったのか」まで考えながら話を聞くことができました。
こうした学びを踏まえてラオスでの企業調査に臨み、私自身も少しずつ、相手の話を掘り下げて聞くことを意識できるようになりました。ベトナムで吉田先生から教えていただいたことを、次のフィールドであるラオスで実際に試すことで、自分のヒアリングの仕方や問いの立て方を改めて考える機会になりました。
ハノイからビエンチャンまでは陸路で移動し、約26時間かかりました。飛行機とはまったく違う時間の流れを体験しました。
この長い移動も、私にとって大きな学びの時間になりました。長崎県立大学の大久保文博先生から教えていただいた「車窓学」1 という考え方を意識し、単なる移動時間として過ごすのではなく、車窓から見える景色や、そこから感じたことに目を向けました。
ラオスに入ってから特に印象に残ったのは、未舗装のまま土煙が舞う山道や、そこを行き交う大型トラック、田園風景の中に点在する平屋の家々でした。日本では舗装された道路を車が走り、商品が必要な場所へ運ばれていくことを当たり前のように感じています。しかし、実際にラオスの道路を走ってみると、道路やインフラの整備状況が、人や物の移動だけでなく、企業活動そのものにも関わっていることを実感しました。このような道路を大型トラックが走っていることに驚く一方で、そこで実際に物流が成り立ち、人々の生活が営まれていることにも気づきました。目の前にある景色をただ「日本と違う」と捉えるのではなく、「なぜこの環境で物流が成り立っているのか」「この道路が企業活動にどのような影響を与えているのか」と考えることで、移動そのものが現地を理解するためのフィールドワークになりました。
国境付近では、イミグレーションが開くまでバスの中で待機し、翌朝にベトナム側の出国手続きを行いました。その後、約1km歩いてラオス側の入国手続きを行い、国境を越えるまでに約3時間かかりました。地図上では隣接している国であっても、人や物が実際に国境を越えて移動するには、時間や制度、インフラなど、様々な要素が関係していることを体感しました。
9月12日19時頃、私たちは無事にビエンチャンへ到着しました。長時間の移動を終えた安心感がある一方で、ラオスの道路や国境を実際に経験したことで、これから始まる企業調査にも、それまでとは違う視点で臨めるのではないかと感じていました。
ラオスではまず、JETROビエンチャン事務所を訪問しました。ここでは、ラオス経済や市場の現状、日系企業の進出状況などについてお話を伺いました。
特に興味深かったのは、地域によってインフラや生活環境が大きく異なることです。例えば、デジタル決済では、通信会社が提供するモバイルマネー2 が普及しています。銀行口座の開設が不要で、携帯電話ネットワークを通じて利用できるため、インターネット速度の遅い遠隔地でも利用しやすい仕組みとなっています。実際に、通信や銀行サービスへのアクセスが限られる山岳地域でも、給与の支払いなどに活用されています。
この話を伺い、現地の課題や不便さは、必ずしもビジネス上の制約になるだけではないのだと感じました。日本では当たり前に使われている仕組みが存在しないからこそ、別の方法が生まれ、それが新しいサービスや需要につながることがあります。その環境の中で人々がどのように生活し、何を必要としているのかを理解することが、海外で事業を展開する上で重要であると学びました。
また、日系企業の進出については、ゼロから販路を構築するのではなく、市場感覚やネットワークを持つ現地企業と連携することが現実的だというお話も伺いました。
この話は、今回の私たち自身の調査とも重なりました。実際にラオスで訪問した企業の多くは、ベトナムでお世話になった方や、そこで生まれたつながりを通じて紹介していただいた企業でした。一つの出会いが次の出会いにつながり、そのネットワークが新たな学びや事業の機会を生み出していくことを、今回のスタディツアーを通じて自分自身も経験することができました。
次に訪問したのは、ベトナムでお世話になった企業の方に紹介していただいたLMBS Sole Co. Ltd.です。
LMBSは、鉱山事業を中心に、貿易や投資などを手がける企業です。日系企業の進出がまだ多くないラオスにおいて、大企業と正面から競合するのではなく、自社が強みを発揮できる領域を選びながら事業を展開しているというお話を伺いました。ビエンチャン支店では、インターン生を中心とした小規模な体制で事業を運営しており、ベトナム展開での経験をもとに作成したマニュアルを毎週更新しながら業務を改善しているそうです。限られた人員であっても、これまでの経験を仕組みとして蓄積し、継続的に改善していくことで、組織としての力を高めていることが分かりました。
特に興味深かったのは、現地マネージャーの方の役割です。日本側からの指示をそのまま伝えるのではなく、ラオス人スタッフの特性や文化を踏まえた形で伝える橋渡し役を担っていました。ベトナムで学んだ「現地化は、単に本社から現地へ仕事や権限を移すことではない」という考え方が、ラオスでも実際の企業活動として現れていました。現地の人材が力を発揮できるように、文化や価値観の違いをつなぐ役割を組織の中に設けることも、現地化を進める上で重要であると感じました。また、ラオス国立大学とのインターン受け入れプログラムを通じて、将来の人材とのつながりを築いていることも伺いました。現地で事業を継続するためには、現在の人材を確保するだけではなく、将来の人材との関係を今から築いていくことも重要であると感じました。さらに、今後は原料をそのまま輸出するだけでなく、ラオス国内で加工することで付加価値を高めていくことを目指しているというお話も伺いました。資源を輸出するだけではなく、現地で加工することで、雇用や技術、利益を国内に残していく。そのためには、人材、インフラ、企業誘致などを一体として考える必要があることを学びました。
続いて訪問したのが、LMBSの方に紹介していただいた工業団地VITA PARK 3です。
ここでは、デベロッパーとラオス政府の担当者が常駐するワンストップサービスによって、企業登録などの手続きを迅速に進められる仕組みや、団地内に専用の変電所を設けることで安定した電力供給を実現していることについて伺いました。さらに、従業員寮や、午前中は学び、午後は働くことができる施設内学校まで整備されていることも知りました。単に工場やオフィスを用意するだけではなく、そこで働く人の生活や学びまで含めて環境を整えることで、企業が進出しやすい地域をつくっているのだと感じました。また、ラオスでは電力の9割以上を再生可能エネルギーで賄っており、安価な電力も強みの一つだというお話がありました(2026年9月現在)。こうした強みを活かし、鉱物や農産物を未加工のまま輸出するのではなく、国内で加工して付加価値を高めていくことが、今後のラオスにとって重要なテーマになるというお話も伺いました。
入居企業の事例として、人材面では、日本的な報告・連絡・相談や計画を重視する働き方と、ラオスの文化とのギャップを埋めるために、中国人のマネージャーを間に置くことで円滑な組織運営を実現した事例についても伺いました。その後は、ラオス人の幹部に権限を渡し、現場をラオス人同士で管理する形へと移行しているそうです。
この事例で目指されていたのは、外から管理し続けることではなく、現地の人材が主体となって組織を運営できる状態でした。ベトナムで学んだ現地化についての理解が、ラオスでの企業調査を通してさらに深まったように感じました。
特に印象に残ったのが、物流についてのお話です。ビエンチャンとハノイを結ぶ高速道路の計画について、全長約580kmのうち、完成しているのはまだ約3割だと伺いました(2026年9月現在)。約26時間かけてハノイからビエンチャンまで移動したからこそ、「この道が将来整備されれば、人や物の移動はどのように変わるのだろう」と、話を自分自身の経験と重ねながら考えることができました。もし道路が整備され、移動時間が大幅に短縮されれば、単に移動が楽になるだけではなく、物流コストやリードタイムが変わり、企業の立地や販路、サプライチェーンそのものにも変化が生まれる可能性があります。移動中に見た現在の道路の姿と、企業の方から伺った将来の構想がつながったことで、インフラと企業活動の関係をより身近に考えることができました。
今回、ラオスでの企業訪問は、ベトナムでの出会いや人とのつながりを起点に実現しました。そのつながりが国境を越えて新たな学びへと広がった経験から、海外でのビジネスにおけるネットワークの意味を改めて実感しました。
今回のスタディツアーを通して、フィールドワークとは、ただ現地に行って話を聞くことだけではないと感じました。事前に学び、問いをつくり、現地で確かめ、そこで得た発見や疑問を持ち帰り、さらに考える。その繰り返しによって、目の前で起きていることを少しずつ深く理解できるようになるのだと思います。移動中の景色から地域の暮らしや物流、環境について考え、企業の方のお話を自分の経験と結びつけることも、新しい問いにつながりました。ラオスでの経験から、現場に行くからこそ得られる学びの大きさを実感しました。
企業訪問以外にも、吉田先生や長崎県立大学の大久保先生、大久保ゼミの皆さんと食事や移動を共にし、話をする機会が多くありました。
普段のゼミとは異なる環境で吉田先生と長い時間を過ごし、先生の考え方や物事との向き合い方に触れることができました。
学生主体で動く中でも、先生が問いを投げかけ、時には立ち止まって考えるきっかけをくださり、背中を押してくださることで、自分たちだけでは見えていなかったことに気づき、考えを深めることができました。先生の人との向き合い方にも触れ、改めて吉田ゼミで学ぶ意味を考える機会になりました。
長崎県立大学の大久保先生とも食事や移動中にお話しする機会があり、人とのつながりを大切にしながら、さまざまな経験を次の学びにつなげている姿が印象に残りました。そして、大久保ゼミの学生との交流も、大きな刺激となりました。大久保ゼミには、東南アジアについて深い知識を持ち、実際に現地でインターンシップを経験している学生も多くおり、そうした学生とフィールドワークを共にし、話をする中で、同じ学生という立場でも、これまでの経験や関心によって物事の見方が大きく異なることを実感しました。東南アジアでの経験が豊富な学生との会話から、自分では気づかなかった視点を知ることができ、自身の見方を広げるきっかけになりました。普段とは異なる環境で、他大学の先生や学生の皆さんと長い時間を共にしたからこそ得られた気づきも多くありました。
企業へのヒアリングや先生方、学生の皆さんとの交流を通して、自分の考え方を広げることができました。今回の経験を貴重な海外経験として終わらせず、現地で得た情報や気づきを整理し、研究成果につなげていきたいと考えています。ベトナムで学んだことをラオスで実践し、さらに新しい気づきを得た経験を、これからの研究活動と自分自身の成長に活かしていきたいと思います。
最後になりますが、今回のスタディツアーにご尽力くださった吉田健太郎先生、大久保文博先生、調査にご協力いただいた企業・関係者の皆さま、そして長崎県立大学・大久保ゼミの皆さまに、心より感謝申し上げます。
経済学部 吉田健太郎ゼミ 3年 近藤早紀
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