企業における「キャリア」の取り組み

6月30日の「現代マネジメントⅠ」では、株式会社シリンクス代表取締役の中山健児氏をお招きし、「企業における『キャリア』の取り組み」と題して、ご講演いただきました。


【ご講演中の中山健児氏】

中山氏は、千葉大学法経学部を卒業後、オムロン株式会社に入社し、人事・労務業務に従事。その後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社にて評価・報酬部門リーダー、SCSK株式会社にてグループ人事マネジメントの基盤構築をリードされました。その後、複数の事業会社において、人事部門責任者および役員として、人事を中心とした経営改革を実行し、人事コンサルタントとして独立されました。

従業員数数千~1万人規模の大手企業から、新規事業創生期の数百人規模の中小・ベンチャー企業に至るまで、「人」と「組織」という側面から、人事改革を中心とした企業再生・経営改革など、さまざまな経営課題の解決に携わっておられます。

人事管理の専門家として、人事処遇制度の設計・導入・運用定着、採用基盤の構築・安定化、労務管理基盤の構築、役員報酬の設計、幹部・基幹人材育成施策の立案・実施、組織変革などを主な専門分野とされています。

ご講演では、まず「組織人事コンサルティングの仕事とは何か」について紹介されました。それは、企業の「人」と「組織」に関する経営課題を、外部の専門家として診断し、解決に導くプロフェッショナルサービスと定義されました。

主な業務として、以下のものが挙げられました。

■ 人事制度設計
等級・評価・報酬を体系的に設計し、社員の成長と処遇を連動させる。
■ 採用戦略構築
採用計画の策定から、選考プロセスの設計・最適化までを支援する。
■ 人材育成・研修
研修体系の構築や、次世代リーダーの計画的な育成を推進する。
■ 組織設計・変革
事業戦略に合わせた組織構造の最適化と、チェンジマネジメントを行う。
■ 評価・報酬制度
成果に応じた、公正で納得感のある処遇体系を構築する。

そして、このような業務がなぜ必要とされるのかについて、以下の3つの観点から説明されました。
❶ 人口減少と人手不足の深刻化
2027年には労働需給ギャップが100万人に達する見込みであり(注1)、人材の確保・定着が経営の最重要課題となっている。
❷ 人的資本経営の要請
人的資本に関する情報開示の動きが進む中、戦略的な人材マネジメントの構築が不可欠となっている。
❸ 高度な専門性が求められる領域
労働法規や制度設計には深い専門知識が必要であり、外部専門家の知見が企業の成長を加速させる。


【ご講演中の中山健児氏】

以上の大枠を踏まえ、それぞれのテーマについて、各論的に詳しく解説していただきました。

特に印象的だったのは、社員にとって会社で働くことへの意識が、「この会社に所属していれば安心」という考え方から、「この会社でキャリアを積み、さらに魅力的な会社・仕事へ進みたい」というキャリア志向へと変化しているという点です。

その中で「キャリア開発」が非常に重視されるようになり、企業が従来取り組んできた「付属的・補完的な教育」「福利厚生的な研修」「自由意思による育成」から、「教育投資」「組織・個人のパフォーマンスを高めるための必須教育」「投資対効果を期待する取り組み」へと変化していることについても説明されました。

最後に、職場におけるキャリア開発は重要である一方、「組織(企業)に貢献するため」だけの狭い意味でのキャリア開発でよいのか、という問いが投げかけられました。すなわち、自分の人生や生活を豊かにするためのキャリア開発という、より広義の意味でのキャリア開発の重要性が示されました。

そのため、大学においては、ただ知識を修得するだけでなく、「人生をどう生きるか」について考えること、人生を豊かにするための知識を増やすこと、人間関係(恩師や友人など)を深めることが求められるとのお話がありました。

貴重なご講義をありがとうございました。大学時代の4年間の意義を問い直す時間となりました。


【ご講演の際の教場の光景】

学生からのコメント

学生からは、以下のようなコメントがありました。

講義を通じて、企業における人的資本経営の必要性と、個人の自律的なキャリア形成の重要性を深く実感した。企業の持続的成長と個人の活躍を両立させるためには、主体的なキャリア開発が不可欠である。特に、エドガー・シャインが提唱する「キャリア・アンカー」の概念が大変参考になった。自分が仕事において最も大切にする価値観や動機を明確に理解することは、激変する労働環境の中で自身の軸をぶらさずに生きていくための強力な武器になると感じた。今後は会社に依存するのではなく、自身の強みを客観的に把握した上で自律的に市場価値を高め、人生全体を豊かにするための広義のキャリアを主体的に切り拓いていきたい。

今回の講義で興味を持ったのは、キャリアを単なる仕事のスキルではなく、人生を豊かにするための広義のキャリアとして捉える視点だ。2027年に労働需給のギャップが100万人に達するという予測を背景に、企業が人をコストではなく投資すべき資本と見なし、個人の自律を支援する人的資本経営へと転換している現状は、私たち学生にとって非常に大きな転換点だと感じた。大学は職業訓練校ではないというアドバイスも、今の自分には新鮮だった。就活のテクニックばかりを気にするのではなく、この自由な時間を使って「どう生きるか」という根源的な問いを深め、人間関係や知識の幅を広げていきたいと思う。

本講義を通じ、企業と個人の関係が「依存」から「共創」へと変化する中でのキャリア開発の重要性を学んだ。深刻な労働力不足を背景に、企業が人を「資本」と捉えて投資する人的資本経営へと転換する一方、働く側にも会社任せにしない自律的なキャリア形成が求められている。特に印象的だったのは、職場での「狭義のキャリア」だけでなく、人生全体を豊かにする「広義のキャリア」という視点だ。会社でのスキルは職業訓練に過ぎず、学校は「どう生きるか」を学び、教養や人間関係を深める場であるという指摘に深く共感した。自身のキャリア・アンカーを見極め、変化の激しい時代を主体的に生き抜くための軸を、大学生活の中で培っていきたい。

注1 田中弦(2025)「『100万人足りない』"超人手不足時代"到来の衝撃 『地方はすでに深刻...』とくに問題の業界は?」東洋経済オンライン。

(M,M.)