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入江泰吉の原風景 昭和の奈良大和路 昭和20~30年代(入江 泰吉写真)

眼横鼻直(がんのうびちょく・げんおうびちょく)
Date:2016.07.01

入江泰吉の原風景 昭和の奈良大和路 昭和20~30年代
入江 泰吉(写真)
2011年8月・光村推古書院
請求記号 216.5/36
Kompass 書誌情報

大学生の頃、演習の準備で『万葉集』の注釈書をいくつか開いていた。その中の一つ、武田祐吉『万葉集全註釈 増訂版』は、表紙の見返しに、万葉ゆかりの地の写真が印刷されていた。それが、あまりに古色蒼然としていて、まるで『万葉集』の景がタイムスリップしてそのまま広がっているように思えた。
実際に明日香や奈良などを歩くようにもなった。柿本人麻呂もこんな感じで見ていたのかな?大伴家持もこのあたりを歩いていたのかな?山の高さは当時のまま変わらないという、当たり前のことを当たり前に思いながら。
教場や机上で学んだこと、そういったことが増えれば増えるほど、『万葉集』に少しでも近づくほど、現地を歩くことは、古代の感覚をより磨かせてくれるのだと思えてきた。でも、あの全註釈の写真から得た衝撃とは違う。どうしても平成の奈良、明日香なのである(それはそれで魅力はあるが)。
最近、ノスタルジーに浸るような昭和の写真集が数多く出版されている。その一つに、奈良出身の写真家入江泰吉氏の、昭和20~30年代の奈良の様子を写し取った写真集がある。近鉄の奈良駅は地上だったのだ、というような現代からの目で楽しめる要素もあるが、全註釈の写真に通ずる、『万葉集』の時代がそのまま映っているような感覚に浸れる写真も少なくない。有名な寺院や観光地だけでなく、町の一風景や何の変哲もない自然の姿なども残されているのが、実に良い。
土壁、木橋、護岸工事されていない川...もちろん高さの変わらぬ山、いろいろ想像力を膨らませてくれる。大伴旅人が大宰府で思いを馳せた明日香は182頁、大伴坂上郎女が何度も詠んだ佐保川は94頁、こんな感じだったのではないか、といった具合である。
古典作品は、言葉に即して丁寧に読むことが求められるのは間違いないが、ゆかりある景を具体的に想起できることも重要な気がする。そういった経験を、写真や現地で実感できるようにすることは、教育の質保証という観点からも意味があるだろう。

国文学科 教授 中嶋 真也

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