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貧困 -その測定と生活保護-(小沼 正著)

眼横鼻直(がんのうびちょく・げんおうびちょく)
Date:2017.07.01

書名 「貧困 -その測定と生活保護-」 
著者 小沼 正
出版者 東京大学出版会
出版年 1974年
請求記号 H764/53
Kompass 書誌情報

本書は私が院生時代の恩師の著書である。
小沼先生は当時、学会では「貧困の小沼さん」で広く知られた研究者であった。東洋史、社会統計等で数々の輝かしい受賞歴をお持ちの先生でもあった。その小沼先生の研究の白眉は何といっても貧困研究であり、その成果が本書に示されている。
第1部は貧困測定、第2部は生活保護の動向に分かれており、前者は「小沼改訂」でも有名な話であるが生活保護基準の算定方式をマーケット・バスケット方式からエンゲル方式に切り替えた経緯が収録されている。これは今日ではこの間の事情を物語る歴史の決定版となっている。
後者においては、わが国生活保護の動向と今後の方向とを明らかにしようとしているものである。終戦を契機としてわが国に導入された生活保護は、極めて近代的な権利意識に基づいて国民の最低生活水準の確保をめざしたものであった。当時のわが国の現実をはるかに飛躍していたと考えていいこの制度が、わが国の現実にどのようにして対応しなければならなかったか、否、現にしなければならないかを明らかにすることは、広くわが国の社会保障にとって重要な課題の一つであると言っていいだろう。この制度の今日に至るまでの経緯を追跡して、その問題点と方向とを把握することに重点を置くと同時に、英米のこの種制度にも論及し、比較対比を行っている。末尾にはわが国生活保護の性格を特色づける言及もなされている。
なお、本書はもとより小沼先生の執筆された論文は文章作法に極めて敏感であり、レトリックを重視されているような気がする。先生の幅広い読書を知る私には少なくともそのように感じられる。もちろんそれは衒学的なものではなく、あくまでも読者をひきつけ、相手を説得するためのものとしてである。名著で名高く、この分野では研究者にとって必読の3大文献の1つでありながら、表現が平明で読みやすく、その上強い説得力もっているのも文章作法を大事にされた先生の性格の表れではないかと思っている。
今日、生活保護がマンガの題材になるほど貧困問題がにわかに注目されているが、社会的な関心が単に量的なものでなく、質的な意味で生活保護の旧態依然たる救貧的性格からの脱却につながる権利思想をわが国に根付かせるためにも、本書が示唆するところは極めて大きい。

図書館長 伊藤 秀一

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