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雄気堂々(城山 三郎著)

眼横鼻直(がんのうびちょく・げんおうびちょく)
Date:2020.08.01

書名 「雄気堂々」
著者 城山 三郎
出版者 講談社
出版年 1986年10月
請求番号 H512.1/298-32
Kompass書誌情報

人生には、避けられぬ転機が訪れる。私が学生の時に入っていた日本経済史のゼミでは、人物に焦点を当てて経済史を研究するアプローチをとっていた。私はゼミをきっかけとして、経済小説の第一人者である城山三郎の愛読者となった。指導教員の転職によって他のゼミに移ることになり、そのゼミが図らずも専門分野となるわけだが、本作は私の故郷の出身、渋沢栄一が主人公ということで、初めて読んだ城山作品である。父とドライブ中に車を止めて、渋沢の養子の平九郎が戊辰戦争で割腹した岩を見学するなど思い出深い小説である。

日本資本主義の父として名前こそ知られているものの、幕末維新の英雄に比べるとその一生が語られることは少ない。そもそも渋沢は武士ではなく、攘夷の熱に浮かされた農民であった。横浜の外国人居留地焼き討ちを思いとどまり、一橋家に仕官した後は、主君の慶喜が将軍位に就き、さらに慶喜の弟の随員となりフランスへ行くという、自らの思想である倒幕と攘夷に矛盾する状況が続く。洋行中に維新が成り、帰国後に新政府より新しい国づくりに誘われる。官職を辞した後は、民間人として株式会社設立など数々の事業、社会活動を行っていく。

こうした渋沢を、変節とするのは安直だ。渋沢は、地位や金ではなく、世のため人のためという、ぶれない信念を持っていた。現実を柔軟に考え、建白魔と称されるほど様々な提言を行い、目の前の仕事に取り組む、いや仕事を作り出すことを続けた。藩閥に属さない一農民でこれほど活躍した人も珍しいが、それは維新という激動期が渋沢に味方したというより、渋沢の人物によるところが大きい。新しい時代は、自ら創り出し参加するもの。常に眼前に広がっている。

グローバル・メディア・スタディーズ学部 講師 星野 真

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